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落下の解剖学のnatsumeのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.5
売れっ子作家の妻と、国際結婚の夫が視覚障害者の息子と家族三人で住む閉ざされた山荘で起きる夫の墜落死。事故が自殺か殺人か。夫殺しの嫌疑をかけられた妻の裁判を中心に物語が進む。次々と出てくる容疑者にとって不利な状況証拠、二転三転する証言。裁判を通じて露わにされていく夫婦の不和とプライバシー。これがハリウッド映画だと、もっとハラハラドキドキさせる演出になると思うけど、そこはさすがカンヌのパルムドール受賞作、ドキュメンタリー風の映像と抑制された演出で、「藪の中」というか西川美和の「ゆれる」に通じるような、居心地の悪さを少しずつ積み重ねて最後までカタルシスを許さないヨーロッパ映画らしさと、途切れない緊張感がとてもよかった。過去の採点とそろえる感じでスコア4.5にしたけど、正直マイナスポイントがない映画。弁護士役のイケおじ俳優、津田健次郎みたいでカッコいいですよ。フランスの法廷での刑事裁判の様子もなんか「こんな感じなんだー」と興味深かった。映像・カメラワークもよい。視覚障害者の息子に寄り添う、ハスキーとシープドッグの合いの子みたいな犬の目の色が死んだ夫の目の色と同じなのも、狙ってるのかな。とにかく細部にわたって隙のない映画だった。饒舌なサスペンスには飽き飽きしているので、めちゃくちゃ満足。西川美和監督作品が好きな人なら、間違いなく好きなはずです。本作の監督ジュスティーヌ・トリエも女性監督で40代。めちゃくちゃ楽しみ。過去作もぜひ日本で上映して欲しい。
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