回想シーンでご飯3杯いける

落下の解剖学の回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
4.5
カンヌ国際映画祭でパルムドールを獲得したフランス映画。雪山の山荘で3階から転落死した夫。当初は事故と思われていたが、やがて妻に殺人容疑が向けられる。

設定こそ密室サスペンス的であるものの、本作のストーリー上の主題は、捜査や法廷で浮上する夫婦の秘密や不和にある。その点では「クレイマー、クレイマー」や「マリッジストーリー」に近い作風と言えるだろう。

技法上で際立つのが、記録された音声だけで夫婦喧嘩を聞かせたり、逆に映像だけ見せて敢えて音声をカットする場面を巧みに取り入れている事である。一見、地味な演出にも思えるが、この手法によって観客の没入感を巧みに煽っていく構成が面白い。登場人物(動物)として、目が不自由な息子と、言葉を話せない犬を配置しているのは、勿論ストーリー上の役割もあるが、この技法の延長として機能させている側面もあるのだと思う。

結果的に観客の心に届くのは、現実を認識する事の不確かさである。僕達は限られた情報の中で現実を認識しているが、それは果たして事実なのだろうか? 逆に、かなり限定された情報だけでも、人間はそこから事実や、相手の感情を読み取る力を持つ瞬間がある。そんな人間の認識について問いかける、実験的で深みのある作品だ。