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落下の解剖学のハルのレビュー・感想・評価

落下の解剖学(2023年製作の映画)
3.8
多数の賞レースに顔を出していて、注目していた作品。
ドラマチックな法廷ミステリーとは異なり、“自殺or他殺”を家族の関係性にフォーカスして淡々と法定論争を繰り広げる骨太ヒューマン・ドラマ。
ミステリー要素強めの作風を想定していたので、感情論のやり取りに面食らう。
言葉の一つ一つに耳を傾ける必要があり、
長尺なことも相まって、とても集中力のいる映画。

劇中では夫の転落死を巡り、妻の言動をメインに取り扱うが、MVPは子供のダニエル君とスヌープ役のメッシ君。
ふたりとも繊細、かつ迫真の演技。
印象的なシーンは法定での証言前「一人で考えさせてほしい」とダニエル君が告げる場面。
彼の心情からすると今後は母親に依存した生活をしなければならない現状。
だからこそ“自己保身”にならないよう事実と感情を切り分け、公平に証言しようとする姿に感銘を覚えた。
子供ながらに必死で考え、葛藤を乗り越え、想いを発していくその姿には心を打たれるね。

しかし、この年齢の子供を法廷に立たせるのはやはり酷。
知らなくてもいい親の本音、自分の存在が「邪魔だったから」等と思わせてしまうのは悲しくてならなかった。

そして、メッシ君。
様々なところで“天才犬”と綴られているし、知っている方も多いだろうが、本当に凄い。
誰よりも“芝居”というものを理解していて、求められるものを完璧にこなしていくワンコの名演…衝撃的だ。
素晴らしすぎて言葉が出ないレベル。
メッシ君は人間以上にヒトを理解してるんだろうな。

中盤以降は法定での証言に映画そのものが集約されていくので、こうしたプレーンな構成が苦手でなければ強度の高い答弁シーンに気持ちは吸い寄せられるはず。
はっきり答えを断言しない締め方もこの作品らしいといえばらしい。
ただ、いわゆるエンタメ的な法廷闘争ではなく、粛々と。
展開がどんどん切り替わるスタイルが好みな方、明確な答えを見たい方にはやや退屈かも。
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