こなつ

枯れ葉のこなつのレビュー・感想・評価

枯れ葉(2023年製作の映画)
4.0
フィンランドの巨匠アキ・カウリスマキ監督が引退宣言したにも関わらす、5年ぶりにメガフォンを取った作品。2023年第76回カンヌ国際映画祭審査員賞受賞。初日から満席に近い状態で、年齢層も高く、映画ファン達の熱い期待を感じた。

ギリギリの生活を送り孤独を抱えながら生きる男と女が、不器用ながらかけがえのないパートナーを見つけようとする姿を描いたラブストーリー。

この作品は、監督の「労働者三部作」に連なる4作目と言われている。「敗者三部作」は鑑賞したのだが、こちらの方がロマンチックな雰囲気があってより私好みかもしれない。

フィンランドの首都ヘルシンキ。理不尽な理由で失業したゼロ時間雇用契約の女性アンサ(アンノウン・ソルジャー)とアル中のサンドブラスト職人のホラッパ(ユッシ・バタネン)が出会い、互いに名前も知らないまま惹かれ合う。しかし、不運な偶然と過酷な現実がふたりをささやかな幸福から遠ざけてしまう。

ポーカーフェイスの登場人物達、ストーリーは至ってシンプルなのに美しい映像と古い音楽、ちょっと気の利いたユーモア、ずっと守り続けている監督のスタイルがそこにあった。いつ頃の設定なのだろうと思うのだが、ラジオからはウクライナ戦争のニュースが流れ、映画館ではゾンビ映画が上映され、携帯電話が使われ、インターネットカフェまで出てくる。決して遠い昔の話ではないのに、ノスタルジックな感覚に浸れることが心地良い。カウリスマキ監督は、厳しい生活の中でも生きる喜びと誇りを失わずにいる人々の日常をいつも丁寧に優しく描いている。

劇中歌は、日本の歌もラジオから流れて来るし、セレナーデやマンボ・イタリアーノなど多彩だった。今回も犬の登場は、カウリスマキ作品らしく、物語をより優しく包むワンポイントになっている。

主演の2人は、カウリスマキ監督作品は初めてとのことだったが、ヤンネ・ヒューティアンネンがホラッパの同僚フータリとして、やたら明るく社交的な男性で出演していて、「街のあかり」のコンスティンとはだいぶ印象が違っていた。「労働者三部作」をはじめ、これから監督の作品に触れることが益々楽しみになった。
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