やんげき

関心領域のやんげきのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
3.8
アトロクで周辺情報を軒並みチェックし尽くした後に観たので、かなり真面目バイアスかけてしまったが、常に「貴方はどっち側?」と問いかけてくる構成がマジでしんどい。

途中うつらうつらしてしまったこともあるが、それこそ事実から目をつむり、漫然と観れば本作はありふれた家族の情景でしかない。

知らなければ、引っかからなければ、ほんの一瞬の違和感だけを残して通り過ぎ、次のシーン(瞬間)では忘れてしまう。

例えば序盤、家でお茶会をしている女性同士(近所の人や夫らの職場が同じだったりするのかといった関係性)がこんな話をしている

「この服はカナダ産よと言ったら、カナダに行ったの?と驚かれたわ」
これユダヤ人から強奪した私物について話している。「カナダ」とはアウシュビッツでユダヤ人の所有物を選別して、ドイツに送る片付け舞台や保管倉庫の呼び名のことだ。

そして、アカデミー賞音響賞も受賞した激ヤバな劇伴だ。アウシュビッツと壁を挟んだ隣に住んでいるため、悲鳴、怒号、銃声が時たま鳥の囀りなどと混じって聴こえてくる。なんて異常な空間なんだ…と思うも、30分もそれが続けば慣れてしまう恐ろしさ。

近年のウクライナ、ガザ、のみならず能登、台湾などの地震、山火事など目耳を覆いたくなるようなニュースに震えるも、2ヶ月も続けば目を滑らせることすらしなくなり、賢いAIはそれらの情報を私の「関心領域」からすぐに締め出し、受動的な情報の受容すら消滅する。

それだけで終わらないのが、本作の巧妙かつ明晰な点だ。無関心な人々だけでなく、いくつかのレイヤーが存在しており、無関心でい続けることの異様さや、真逆とも言える存在がいることで「これはあなたの話ですよ」と囁き、共感できる余地を随所に混ぜ込んでいる。

本作で描かれていないこと、画面に見えないこと、考えさせることこそ、この異常でグロテスクな営みを起こさせない方法なのではないだろうか。
やんげき

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