やんげき

オッペンハイマーのやんげきのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.0
絶対に忘れてはいけない悪魔の破壊兵器の誕生秘話を、日本人の1人としてどう受け止めるべきなのか。

「ああ、京都は(原爆を落とすリスト)から外した。あそこはとてもいい場所だ。妻と一緒に旅行に行ったんだ」

と長官が言い、会議中の一堂が一瞬呆然とする一幕がある。

この作品は、ナチスのユダヤ弾圧を止め、世界中の同胞を救うことが前半のエンジンになっているように見える。しかし、遠く離れた日本についての情緒的なエピソードはこの一言しか語られなかったことが、多くを象徴している。

もしこのチームの中に1人でも日本につながりを持つ人間がいたら、結果は少し違ったのではないだろうか。

人の独善性、視野の限界、純度の高い同一性コミュニティが広島長崎原爆投下という悲劇を産んだのではないかと私には思えた。

本作は真実性に寄った誠実な作品だが、それ故に戦中に起こるある種の想像力の麻痺と戦後に訪れるそれらのゆり返しは、未だ人間社会は制御不能であり、その事は何度でもこうして見せる価値があると思う。


以下は蛇足だが…ノーラン的な特徴との食い合わせはそこまで良くなかったような気がする。

1954年ソ連のスパイ疑惑を受けたオッペンハイマー聴聞会
1959年同事件の首謀者と目されるストローズ公聴会
2つの時間軸を何度も行き来し、オッペンハイマーという人物を羅生門形式で浮かび上がらせるのだけど…難解だよ。明らかにもっとスッキリまとめられたでしょ。帰ってきてジョナサン。
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