やんげき

悪は存在しないのやんげきのレビュー・感想・評価

悪は存在しない(2023年製作の映画)
3.5
タイトルが秀逸!

美しいがそれだけにあらず、対話の可能性を残しつつも不条理な世界。当たり前過ぎて見過ごしていた…いや、語れば平板になってしまうであろう部分を掬い取って、光に透かして、鮮やかな彩色を乗せて、描かれた自然と人の営み。

明暗を…いや、闇が侵食していく様をまざまざと映し出すラストスパートにこそ、本作の新たな濱口イズムがあるのではなかろうか。

得意の哲学的対話において、世界そのものを立体的にし、ひいてはそこに不条理性を帯びさせるという濱口メソッドはややなりをひそめ、彩度の高いビジュアルから静かに光を吸い取っていく夜の山の容赦の無さと劇伴から成る不均整な揺らぎ。それらに呼応するように観客を見事に裏切る、ある決定的な行為の方が後を引く。

そこに「悪は存在しない」というタイトルの意味を何度も考え直し、その中に込められた監督の意図に想いを巡らせてしまう。

しかし、その答えは、本作を観たり時に自分の中に去来したいくつかの意味の萌芽であり、押し付けられるものでも、確たるものでもない。そのザラついた未名の感想に、どこか座りの悪さを覚えつつも、気になって触りを確かめてしまう。
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