くまねこさん

関心領域のくまねこさんのレビュー・感想・評価

関心領域(2023年製作の映画)
3.7
「関心領域」ジョナサン・グレイザー監督作品をTOHO日本橋で鑑賞。

アウシュビッツ強制収容所の隣で平和な生活を送る一家の日々の営みを描くホームドラマ風味の戦争歴史映画。この手の映画に影響されやすいので気持ちを入れないよう留意して見た。

タイトルは第2次世界大戦中、ポーランド郊外のアウシュビッツ強制収容所群を取り囲む40平方キロメートルの地域を表現するためにナチス親衛隊が使った言葉らしい。

🏆第96回アカデミー賞 国際長編映画賞
および音響賞受賞
🏆第76回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞

実験的でアート系寄りの手触りで、当然ながら欧州風味が強く、大手シネコンで上映されてるのが不思議なくらい全くエンタメ感がない。

最大10台の固定カメラを、セット内の各部屋それぞれに用意して、5人の撮影チームが遠隔操作しながら同時に撮影したらしい。ほとんどのカットが引きの全景を捉えた映像で、ドキュメンタリックな手触りで、感情移入させない、突き放した建て付け。いわば観客に客観的な視点で作品をみせる意図なのだろう。

強制収容所から聞こえてくる銃声、怒号、絶叫、それらを掻き消そうとするバイクの音。煙突から上がってくる黒煙は生きたまま焼かれてるユダヤ人の姿を否応なく想像させられた…。

ルドルフ・ヘス所長が妻ヘドウィグ(サンドラ・ヒュラー)に昇進による転勤の話を打ち明けた際の妻の怒り方が印象に残る。「やっと手に入れたここの生活は絶対に手放したくないの、あなた独りで転勤すればいいじゃない!」余程、手に入れた既得権益は本当に快適なんだろうな。その直後、怒りにまかせてお手伝いの女性に言い放った言葉「あんた、夫に頼んで灰にしてもらうわよ!」パワハラというより殺人予告である。つまり奥さんは普段見て見ぬ振りだけど、塀の向こうで起こってる大量殺人の事実を知ってるんだろうね…

ルドルフ・ヘス所長(クリスティアン・フリーデル)は家庭内では父親らしい振舞ったり、お馬さんに顔を寄せたり、自宅の黒犬や転勤先の道端で会ったワンコを可愛がったりする。強制収容所の所長としての残虐性を浮かび上がらせる愛情描写なのだろう。

終盤のルドルフの嘔吐が意味するものは何だろうか、自身の悪行の行いに反省・後悔したものなのだろうか?

終盤に映し出される現在のポーランド🇵🇱 アウシュビッツ博物館に展示されてるユダヤ人の大量の靴、ガス室を清掃する職員たちの姿…この映画は今の世界のあり様に物申している様でもある。