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ドラキュラ/デメテル号最期の航海のnoteのネタバレレビュー・内容・結末

3.1

このレビューはネタバレを含みます

ルーマニアからロンドンへの航海に出たデメテル号。そこには不気味な50個の木箱が積まれていた。出航して間もなく、一人の乗組員が行方不明となり、甲板には大量の血痕が。それから毎夜、船長のエリオット、孫のトビー、そして黒人医師クレメンスらは、逃げ場のない船上で、恐ろしい体験をすることになる…。

ブラム・ストーカーの古典「吸血鬼ドラキュラ」の中で、イギリスに渡るドラキュラを乗せた船・デメテル号船長の航海日誌のエピソードをクローズアップして映画化した作品。

世にドラキュラ映画が数あれど、原作のこの部分を取り上げるとは目の付け所が良い。
映画化作品の多くは「どうせドラキュラは海を渡って人を襲う」と省略されがちだ。
「トロール・ハンター」や「ジェーン・ドゥの解剖」で知られるノルウェー出身のアンドレ・ウーヴレダル監督は、この話を逃げ場のない船上で繰り広げられるシチュエーションスリラーに仕上げた。
しかし、ありふれた演出が目に付くのが残念。
佳作止まりの「モンスター」ホラーである。

乗組員たちがルーマニアからの積荷を積んでいるときに、積荷に描かれたドラゴンのマークを見た乗組員が積荷を落とす。
彼はその荷が不吉なものだと言い、逃げ帰ってしまう。
恐らくCGだと思われるが、現在のものを排除した19世紀の美しい風景、人々の衣装や小道具に気が行き届いた波止場の様子は「タイタニック」のように細部に神が宿っている。
序盤は正統派ゴシック・ホラーを感じさせる雰囲気のある作りである。

欠員が出て、船医の仕事にありついたクレメンスは、ある嵐の夜、船倉のドラゴンのマークの箱が一つ壊れていることに気づく。
すると箱からこぼれていた土の中から瀕死の女性を発見。
早速クレメンスは女性に治療を始め、自らの血で輸血を開始。
気を失ったままだが、女性の容態は安定する。
なるほど大量の木箱はドラキュラ伯爵の衣装や宝物ではなく、食料(人間の生き血)の貯蔵庫だったのか?
同じ頃、船倉の中にある箱の中の謎の怪物が目を覚まし、番犬や家畜たちが殺されてしまう。
登場時の青白く痩せ細ったドラキュラの身体は幽霊のよう。
これから血を吸って自らの血肉をつけ、どんな人間の姿となってゆくのか?

夜になり、甲板に向かった船員が謎の怪物に襲われ、血を飲まれて殺される。
意識の戻った女性アンナから、これはドラキュラの仕業でアンナ自身もルーマニア城の近くに住む農民でドラキュラの食事用の奴隷だったことを知る。
何度もドラキュラに噛まれた後があるアンナに、殺そうにも殺せないのは、そこに愛があるのか?
この病弱そうなドラキュラはどんな姿となって、人ならぬ者となってしまった哀しき怪物の心情を吐露してくれるのか?と期待した。
しかし、個人的なその期待は裏切られる。
怪物はそのまま忌み嫌われる怪物として描かれるのだ。

2人の船員がさらにドラキュラに襲われ、1人は一命は取り留めるが凶暴化。
マストに縛り付けられた船員は太陽の光で燃え尽きてしまう。
血を吸われても生き残った者が吸血鬼になるのは、コロナ禍での「ウイルス感染」を取り入れたか?

怖くなったシェフのジョセフがこっそりと救命ボートで逃げ出そうとした時、肉体を変化させ翼の生えたドラキュラに空から襲われて殺されてしまう。
本作のドラキュラは人間らしくなるではなく、コウモリの親玉のように変化していく。
その変化と狭い船内で(人種を問わず)人間たちが生き残ろうとする展開は、まるでSFホラーの名作「エイリアン」を彷彿とさせる王道のモンスター・ホラーと化していくのだ。

次の朝、ドラキュラに襲われすっかり血を抜かれて死んでいるトビーを見つける。
乗組員たちはトビーもきっと吸血鬼になると悟り、トビーの死体を海に捨てようとする。
本作で最も印象に残るのは、この幼いトビーを弔うシーンだろう。
シーツに包まれたトビーの遺体にアンナが祈りを捧げ、エリオットが最後に顔を一目見ようとシーツをめくると、突然トビーが吸血鬼化してエリオットに襲いかかる。
預かった大切な孫を失ったエリオットの心情もさることながら、こんな幼い子どもまで「感染」して犠牲になるとは…と、心が痛む。
直後に太陽の光を浴びて炎に包まれたトビーが、そのまま海に沈んでいくのが哀れだ。
コロナ禍で幼い子どもを失った人の悲しみを想像してしまう。

目的地のイギリスへ近づき、航海は終わりに近づく。
このままドラキュラをイギリスに渡らせては、犠牲者が増える。
乗組員たちの話し合いは、船ごと燃やそうという意見と、愛する船を残したいという意見が平行線に終わり、最終的に全員でドラキュラを退治すべく決戦に挑む。

深い霧の中、自由に飛び回るドラキュラに船員たちは次々と殺されていく。
銃を撃ち込もうがドラキュラには全く通用しない。
仲間たちは次々と倒され、クレメンスにも襲いかかる。
だが一瞬の隙をついて、アンナがマストの縄を切り、巨大なマストと柱でドラキュラを挟み込むことに成功。

生き残ったクレメンスとアンナは船を乗り捨てて逃げ出す。
デメテル号はドラキュラを挟んだまま、イギリスの海岸に座礁する。

漂流するクレメンスとアンナに夜明けが近づく。
アンナはクレメンスの輸血により吸血鬼化が抑えられていたが、また吸血鬼に戻って来ていると告白。
クレメンスから離れたアンナは、一人そのまま朝日を浴びて焼け死んでいった。

ラスト、無事に生き残ってロンドンに着いたクレメンスの前に、ドラキュラが現れる。
ドラキュラはクレメンスをあざ笑うかのように笑みを見せると夜の闇に消えていった…。

「ドラキュラ」と聞くと、マントやダークスーツに身を包んだ気品と色気の漂うユニバーサル・モンスターズなどのドラキュラ伯爵を思い浮かべる人が多いかもしれないが、本作に登場するのは単純に恐ろしい化け物だ。

情け容赦のない展開と目を覆いたくなるような残虐なシーンが続くので、ドラキュラとは無縁のモンスター・ホラーとして楽しむのが正解なのかもしれない。
ドラキュラの話を知らない人にはホラーとして充分怖いだろう。
だが、このモンスターがやがて伯爵の姿へと変わっていくというのだろうか?
それは想像しにくい。
「ドラキュラ」の話を知っている者には、やはり人を惑わす蠱惑的魅力や有無を言わせず人を従わせる暴君など、吸血鬼という化け物に落ちてしまった背景が想像できないのが残念なポイントだ。

映像や雰囲気はとても素晴らしい。
だが、人種に配慮した現代風のキャスティングが鼻につくのと、怪物の悲哀が無いのが残念である。
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