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タイタニックのこのレビュー・感想・評価

タイタニック(1997年製作の映画)
3.7
映画好きを自称するなら必ず観なくてはならないといっても過言ではない、洋画界の金字塔。180分を超える超作であるがゆえに今までなかなか観れずにいたが、やっと腰を据えて鑑賞できた。

正直想像していた何倍も、何十倍も残酷な物語であったというのが本音。その衝撃がこの作品を頂点に導いたのは間違いないであろうが。

この作品の題材を大きく2つ挙げるとすれば「身分社会」と「人命軽視」。他にもこの悲劇の引き金となりうる要因は山ほどあるだろうが、より深刻視すべきはこれらの非人道的な人間の価値観である。

吐き気がするほどの身分社会、差別的な上流階級の人間。今回ジャックとローズの愛の背景に在るのはこの社会的問題が最も根強いはずである。息が詰まりそうな富裕層の生活に嫌気がさしたローズの心の拠り所となったのは他でもない下級階層のジャックであった。

ローズと行動を共にするジャックに対して排他的になるのは当然であるが、非常事態にかこつけて命をも奪おうとしたのを見ると、当時の貴族の恐ろしいほどの独占欲と自尊心に辟易するし、驕り高ぶる哀れな存在に思えてならない。沈みゆく客船を見て先に避難した貴族の人間達は何を思うのだろうか。そんな腐敗した価値観しか持ち合わせていない人間を前にして、健康な身体とスケッチブックさえあれば幸せに生きていけると断言したジャックを見て、ちょうど自分の生き方について迷っていた自分への叱咤激励のように感じてしまった。

もう1つの人命軽視であるが、これも根本にはやはり身分社会が存在する。2200人の客を第一から第三の階級にカテゴライズして分相応の対応を取る。これも今日では当然みられない光景であるが、当時この身分社会がどれだけ醜く愚かな社会形態であったかを訴えかけられたようだった。船の見栄えという点で乗客のキャパシティ以下の救命ボートしか用意せず、結果これが多くの人間の命を奪った。

沈みゆく船の上でその時を過ごす人間の状態は様々だった。大半が他者を犠牲にしてでも生にしがみつく一方で、自らの船の設計や航行指示に責任を感じ船と運命を共にしようとする者、限られたイスの争奪に疲れ最後の時間を家族と安らかに過ごそうとする者、人命を救う責任の重さに耐えられず自害する者、腐った価値観を兼ね備えた社会を背景に、人間が命の危機に差し迫った時に各々とる行動は、いささか言い方が悪いかもしれないが注目すべき描写であった。特に生ではない何か別のものを求めて演奏し続ける音楽家達は見ていて胸が熱くなった。

複雑な社会問題抜きにして、船頭で手を広げて風を感じる2人は本当に美しかった。身分という垣根を超えた本物の愛の姿を見れただけに、その命が失われる瞬間は深い悲しみを感じた。

80年を経て果たされた約束とともに大海に沈みゆく宝石が儚く綺麗であった。おそらく最後は現代のローズも息を引き取ったのかな。余韻に浸ったままエンディングテーマを聴きたくてエンドロールまで全部観て200分。長丁場だったけど本当に見てよかった。
こ