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7番房の奇跡のこのレビュー・感想・評価

7番房の奇跡(2013年製作の映画)
3.8
物凄く感動した一方で、冤罪の恐ろしさを思い知らされる作品だった。国家権力の私情が込みいれば尚のこと、ましてや対象が知的障害者である事実を考えると、こんなにおぞましいことがあって良いのかと憤怒さえ覚える。

目の前で命乞いをして生にしがみつこうとする父親を見て、イェスンは何を思ったのだろう。表向きに見える感情だけではその全てを理解することはできない。

刑務課長のように、同調圧力に屈さずに物事を客観的かつフラットなパースペクティブで見る事のできる人間は素晴らしいし、いつしか本気でヨングの無実を信じているのが人間味に溢れている。でも彼の信念はヨングを殴った序盤から一貫して変わっていない。それは己の正義を徹底して掲げることであり、司法の犬に成り下がる隙を与えないものである。

7番房メンバーもちゃんと各々がキャラ立ちしていてアイデンティティが確立されていて良かったな。房長の不器用だけど人情味溢れてる部分に惹かれる人も多かったんじゃないか。

目に見えてるものやメディアの意思操作で物事を認識する大衆の「ヨングを死刑にすべきだ」という意見は致し方ないだろうが、歪んだ正義の象徴としてやはり気持ちの悪いものであると感じてしまう。これは日本においても同様。

感動を誘致しながら、何かを訴えかけられているような気分になった。「悪人にもこんな心優しい人達がいる」なんて軽薄なメッセージ性ではなく、我々が無意識的に信じている司法という存在が、時に私情まみれの虚像であるという事実の恐ろしさである。

このケースは今回のヨングのような知的障害者だけでなく、その他何らかの身体的・精神的ハンデを背負ってる人間に当てはめて考えることもできてしまうのではないだろうか。

国家の安寧、民衆の無意味な安心の確保のために犠牲になる「駒」のような存在に司法は目をつける。真実の究明ではなく社会が「事件が解決した」と認識することが最重要。ちゃんちゃら馬鹿げてる。

弁護士も弁護人が知的障害者であるという事実だけを見て、判決に遅延が生じそうなものは容赦なく黙殺する。それでいて「寛大な処置を」と裁判長に丸投げする姿は「弁護」という言葉の意味はなんだったのかを忘れてしまいそうになる程だ。

そういった意味ではこれが洋画ではなく韓流映画だったので、どことなく近しい視点で物事を考えることができたような気がする。

警察部部長は当然弾劾されたんだよな、とつい思いながらラストを見てしまったが、空を見上げるイェスンの姿を見て、私は本当に大切なものが何なのかを気付かされた気がする。

全部見た後に、もう一度冒頭の再会シーンを見ると胸にこみあげてくるものがある。みんなヨングが大好きだったんだと思い知らされる。
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