乙郎さん

瞳をとじての乙郎さんのレビュー・感想・評価

瞳をとじて(2023年製作の映画)
3.0
スペインの監督ビクトル・エリセの30年ぶりの作品。
 エリセだと『ミツバチのささやき』('73)はオールタイム級に好きだ。観に行ったことも、新作をリアルタイムで経験することそれ自体が目的という不純な動機があったのも否めない。
 そして観た感想。まず、好きにはなれない。老作家が30年ぶりに撮った映画として、およそ撮ってほしくはない題材だった。過去、映画を撮影していた時に失踪した俳優を探す、という題材が、どうも言い訳がましく思えるし、御年83歳の作家の分身を(10年前の設定としても)60歳のマノロ・ソロが演じるというのも、どうもナルシスティックに感じてしまったし、何よりも、こういった私小説的な話に2時間半かけられることにやや傲慢さを感じてしまった。(余談だが、僕がビクトル・エリセを知ったのは大槻ケンヂがエッセイで『マルメロの陽光』を酷評していたのを読んだのがきっかけなのだけども、オーケンも結局絵を描かない画家の姿に傲慢さを感じたのかなとちょっと思った)
 多分こういったネガティブな感情があったから、いきおい評価も低くなる。良いシーンはあったんだよ。いろんな人が指摘する「私はアナ」の再現、失踪した俳優フリオがサッカーのゴールというフレームの中に入る場面、映画内映画の瑞々しさ。ラストの切り返し。ただ、全体を通して会話が多く、それが大半を占めていることもあってか、その退屈を吹き飛ばすほどの画の力はなかったと思う。自然や風化した建物があるところはともかく、大半は都会や新しい建物の味気ない場面ばかりだもの。
 とはいえ、こう書いてしまったのも僕がまだ充分に歳をとってないからかもしれない。いつか観返します。
乙郎さん

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