乙郎さん

ゴーストワールドの乙郎さんのレビュー・感想・評価

ゴーストワールド(2001年製作の映画)
5.0
 2001年製作。近年リバイバル上映されているらしく、大学生の時以来に鑑賞。平日の夜ではあるが大型連休の間ということもあり、結構な客入り。しかも若い観客が多かった気がする。
 さて、感想。この作品はよくコメディ映画に属される。映画レビューにありがちなクリシェに、本人的には悲劇的な経験を距離感を持って眺めているさまを「実はコメディです」というのがあって、死んでも使ってやるものかと思っているのだけれども、『ゴーストワールド』に関して言えば「実はコメディではありません」と言ってしまっても良いかもしれない。アメリカの、というよりもコメディ映画の伝統的な作劇法および効用として、人生におけるハードな問題に対して、ユーモアを持って描くことで同じような観客の心持ちを軽くするといったものがあると思うのだけれども、その意味で言えばこの映画はコメディ映画の作劇法に真っ向から対立している。
 久々に観て思ったのが、90分くらいまでは確かにコメディという印象も強いが、ラスト30分くらいはとてもコメディとは呼べないくらい。例えば、イーニド(ソーラ・バーチ)の足取りが最初は劇伴とテンポが合っているのだけれども、段々ずれてくるように、社会とのずれがあらわになってくる。結構ダグラス・サークのメロドラマ映画に近いかもしれない。特にいかにもアメリカの新興住宅地域といった感じの場所でイーニドとレベッカ(スカーレット・ヨハンソン)が言い争うところなどそれを感じた。あと、テレビやソファの使い方。そのほかに連想した映画としては、卒業してから社会に出るまでのモラトリアムや、老人とバスの関係などは『卒業』(‘67)か。
 要は、この物語の主人公イーニドは、現実社会に参加しない、したがらないのか、する勇気がないのか。弁は立つからその場その場で逃げることはできる。けれども、逃げられなくなった時にどうするか。20年代の差別的な広告を取り巻く状況など、色々な人を「論破」してきた者が「炎上」した時の様子を観るようで、このあたりは時代を超えて接続されるダイナミズムがあった。
 しかし、ラストは暗示的とは言え、やはり死を象徴しているだろうというのが通説なわけで、確か大学時代に初見だった時、その時の自分の状況も相まって呆然としながらチャプター選択画面を何度も繰り返したままにしていたのを覚えている。今はイーニドたちのように世間に悪態をついたり、シーモア(スティーヴ・ブシェミ)のようにコレクターに淫する要素はありつつもどうにか社会と折り合いをつけられている・・・はず。
 
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