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Milkman in Mäeküla(英題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

Milkman in Mäeküla(英題)(1965年製作の映画)
4.5
[エストニア、欲に目が眩んだ男たちの末路] 90点

大傑作。レイダ・ライウス(Leida Laius)初長編作品。エストニアの大作家エドゥアルド・ヴィルデ(Eduard Vilde)の最高傑作とも称される同名小説の映画化作品。農夫トヌ・プリルップの妻が亡くなった。遺された幼い子供たちの世話をするため、慣習に従ってトヌは亡妻のうら若き妹マリと結婚する(余談だが若い頃のサマンサ・モートンに似てる)。このトヌという男、金持ちになりたいという夢だけが肥大したような人物で、その間の手段が完全に欠落してしまっているため、どんな仕事をしているかもよく理解しないまま、近所の酪農場の支配人で牛乳売りの裕福な暮らしを羨んでいる。ある日、ドイツ系貴族クレメル男爵が農場で寝転ぶ美しいマリを見て気に入ってしまった。略奪は流石に犯罪なので…と妙に知恵の働くこのエロ男爵は、裕福な暮らしを夢見るトヌに酪農場を貸し与え、その交換にマリをゲットする計画を立てた。トヌはチャンスと言わんばかりに、自分の裕福な生活のためにマリを無理矢理説得するが、牛乳売りのセンスが壊滅的な上にマリとも距離が開き始め云々。

本作品において、エロ男爵は支配階層に属していたバルト・ドイツ人の衰退や古い特権にしがみつく欲望、トヌは単純で貧しい農夫が欲張ってもっと貧しくなるという教訓的側面を表している。両者が所有物のように考えているマリは、実は最も自由であり、そんな彼女は他者から自立して生きる道を選び取る。そのテーマ性は二作目『Werewolf』にも共通している。本作品の感情表現は内面の複雑さに反して非常にシンプルなので、エロ男爵は服装によって、トヌは二人の子供とはしゃぐ姿を通して三人目の子供として、マリを所有物と捉えているのが視覚化されるのが只管上手い。

DoPは異なるものの、モノクロ画面上での光の扱いの素晴らしさも『Werewolf』と似ている。特にトヌの自宅に差す光の美しさは、トヌの試みの下劣さを目の当たりにするマリを導く天啓のようだ。加えて、白黒反転した巨大なエロ男爵が襲ってくるというトヌの悪夢や天使のようなマリの幻影など、モノクロを意識した対比映像も見事。
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