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ほつれるのBATIのレビュー・感想・評価

ほつれる(2023年製作の映画)
4.6
不倫ということよりも、人と生きる息苦しさがテーマになっていて良かった。だからこそのほぼスコアのないアンビエントだけが通底して流れる(エンドロールで音響ジム・オルークとあっておったまげた)。人と相容れないまたは相容れなくなること、そこにどちらが正しいはない。後半にある「不倫だから上手くつきあえてる」にテーマの全てがある。独りでいることも二人でいることにもいつか耐えられなくなる。車の走るショットで終わることもしっくりくる。

綿子(門脇麦)と木村(染谷将太)との関係は恋愛というよりは似たもの同士の共犯関係なのだと観終わったあとは思う。不倫する側された側どちらが悪いという描き方に陥ってないのも好感だが、10年前であれば「濡れ場」及び事前/事後の描写がありそうなのに加藤拓也の作劇にはそれがないのもノイズレスかつ「何がテーマなのか」を語らずに語ることに注力できていると思える。

監督である加藤拓也がHPで「この作品では当事者性を感じることができやい、またはしないで、向き合うことを諦めているある一人のもつれが描かれています。」と語っていた。綿子を縛っているものとは夫なのか。社会規範なのか。それとも自分自身なのか。答えとは綿子の自意識そのものだと私は考える。

綿子の夫、文則(田村健太郎)の造形がかなりリアルに感じた。ああいう感じの男沢山いる。で、木村の妻(安藤聖)の若干杓子定規なところもなんだか似ている。木村の父もそう。邪悪な人間たちでは決してないけれども。行き着くところは「人と生きるのはしんどい」。人を好きといえるときはその人の好きな部分が優っているからで、そこも綿子の言葉で語られる。本当に恋愛の話でも不倫の話でもない、人と生きる息苦しさの話。

観終わった時にベクトルこそ違えど濱口竜介の「寝ても覚めても」に近いものを感じた。あと、走行する車を後ろから撮るショットがこれだけ出てくれば思い出すのはソフィア・コッポラの「SOMEWHERE」ですよねぇ。どっちも「出られない」話だ。
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