カカポ

哀れなるものたちのカカポのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.5
この角度から飛びこんでいってめでたしめでたしに着地できることあるんだ………と思った。極めてヘンテコな映画ではあるが、同時に非常にフェミニズム的であり一人の女性の成長物語としてパーフェクトな作品だった。

体こそ成人であるものの、中身は生まれたばかりの子供同然であるベラ。閉じ込められた家の中で貪欲に物事を吸収しながら、社会的な慣例を一切知らずに成長した彼女は、人々が暗黙のうちに内面化している常識やルールに縛られず、自分がどう思ったか、何をしたいかだけを選び取っていく。その行動は危なっかしく時に痛々しくも見えるが、なぜか同時に「ベラなら大丈夫だろう」「なぜ私はベラのように生きられないのだろう」とすら思わされる。
なぜ食べたい時にエッグパイを好きなだけ食べてはいけないの?なぜ外の世界に死にそうな赤ん坊がいるのに私は羽毛布団で横になっているの?そして、なぜこんなことを考えてはいけないと思い込まされてしまうのだろう?

そんな無垢な彼女の元に現れるのが男たちだ。彼らはベラに"与える"ために近づき、彼女を弱く守り導くべきものとして自分の所有下におこうとする。男たちは保護者としてベラに様々なことを教え始める。生まれたての赤ん坊の状態から、まず生き方を、続いて欲を満たすことを教えられる。ベラは教えられるがままにその知識を吸収し、男たちが自分を求め、支配下に置く環境をなんの疑問もなく受け入れる。

しかし、そんな彼女の運命はベラが冒険を求め、世界を知ることで大きく変化していく。旅の中で彼女は、年老いた女から、「自分で学び考える力」を得ることになる。今まで男たちから与えられた世界の中でしか生きていなかった彼女は、時に恐怖や絶望を体験しながらも本当の"世界"と対面するようになる。そして「学び」を得たベラは支配を振り解く力を獲得し、保護者に守られ与えられるだけの世界から飛び出し、自らの体で世界からの"生"の権利を獲得する方法を探し始める。

常識や慣例は通用しないベラが学びという武器を手に入れた時、それは革命の始まりだ。女は淑やかで守られ従うものという常識の外に生きながら、自分の人生のハンドルをしっかりと握ることを選んだベラの変化に、これまで"与えている"と思っていた男たちは動揺する。拒絶し罵るもの、それでも支配を望むもの、受け入れるもの、そして新たな気づきを得るもの。今後のベラの人生にとって必要な人物が誰かなど、もはや言うまでもない。

女がこれまで受けていた支配に気付き、冒険し学び、自分の足で立つ方法を獲得することを、あえて"生まれ変わり"だと言いたい。そして、ベラが生まれ変わりながら人生を獲得したように誰にもそのチャンスはあるはずだ。

成人女性に閉じ込められた幼児の内面から、成長していく姿を問答無用の演技の力で見せ切ったエマストーンには心底感服した。プロデューサーにも入っているということでその映画人としての行先が何より楽しみ。脇を固めるウィレムデフォー、マークラファロも凄まじい!
決してデート向きではないけど本当にこの先一緒に過ごせるか迷ってる相手と見にいくのにはこれ以上の作品はないのではと思う。
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