あおは

哀れなるものたちのあおはのネタバレレビュー・内容・結末

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

今作はR18で、まずなぜR18という年齢制限を設けたのかを探りながら観た。
自分なりに得た答えが2つある。
1つ目は、多少のグロと過激なエロが描写されていること。グロはバクスターたち科学者が内臓を扱うところにあり、腹を切って内臓を取り出していたから、これは人生や人間を解析することの暗喩かなと思った。エロに関しては人間の本能的な欲望が表面化してきて、これは社会的には良識のないことや汚いことと見られがちだけれど、そこをしっかり見つめることも人生だと言っているのだと思った。
2つ目は、これが大人へ向けたメッセージであるということ。今作での世界の描かれ方はおとぎ話に足を踏み入れたようでとても可愛らしく幻想的で美しかった。これはベラがダンカンに連れられ外の世界へ飛び出していって世界が色づいてからの描写で、子どものように世界を鮮やかな目線で見ることの大切さを説いているのではないかと感じた。
ベラが大人の体に胎児の脳を移植されたのも、大人が子どもになること、つまり子どもの視点で世界を見直すことを表現しているのだと思った。子どもの目をとおして世界を見ると、そこは白黒の寂しい世界ではなく、もっともっとファンタジックで輝いていること、そこへ冒険心と勇気を持って飛び出し、自分自身を創りあげること。その重要性を観られた。

自由を求めること。
ベラの自殺シーンから本作は幕を開けるが、終盤に至るまでその理由は明かされない。ベラの夫であった将軍が現れ、彼と再び暮らすことで彼女が自殺した理由が映像的に観せられる。将軍の強い束縛から逃れるためにお腹の中にいる胎児と共に死を選択したらしかった。
ほかにもベラを作ったバクスターの束縛や、他の男性との性行為で強烈な独占欲と嫌悪感を示すダンカンの存在。
ベラという女性が生きていくにあたり、あらゆるところに男性からの縛りがあることが分かる。しかし彼女は、それらに対抗するように、縛られることなく、自分の心に従い外へ外へと飛び出していく。やったことがなく初めてやることでもやりたいと言ったり、結婚式の途中でも自身のことを知るために将軍についていってしまったり、周りの男性を振り回しながらも真っ直ぐに探究心や好奇心に乗って進んでいく彼女の生き方はとても魅力的に映った。

科学の進行を妨げる最大のものは倫理観という話を聞いたことがある。バクスターをみると、彼の父親をはじめバクスターらは倫理観や社会の良識から外れたところで研究を進めているように見えた。それがバクスターが天才外科医と言われている理由だと考えると、人生において自分自身を深く探求するためには、社会の良識を破ってでも探究心や好奇心に従ったほうが良いのではないかと思った。船で出会った黒人の男性が、良識ある社会は君を破滅させると言っていたのも、そのようなことなのだと納得した。
社会の良識とはつまり思考や理性のなかで起こることで、哲学も思考によるもので、黒人の男性が言っていた哲学による向上は人間は残酷な獣という事実からの逃避というセリフも、良識に縛られていたら残酷な欲望や感情を持つ人間本来の姿が見えず、そこを見つめないからには思慮深い大人になれないと言っているような気もした。
心と体。体は物理的に縛れるものだけれど、心を縛ることは誰にもできない。心は子どもだけれど体は大人のベラ。この設定も心と体の動きにはズレがあると主張していると思った。心と体のベクトルを合わせることはとても大切なことなのかもしれない。

自由を求めて人生を考え大人になること。
いい世界を知って心が躍り心のままに突き進むこともあれば、想像もできないような苦しみと痛みに飲まれている世界もあり、双方を胸に抱えながら生きるのが人生であると言っていると感じた。世界の痛みを知ることが、人間としての深みになるのだなとも思った。

性がテーマとして取り上げられるなかで、女性のあり方も描写されていた。
今作を観ると、社会を動かすのは男性でも、その男性よりも女性のほうが強いのだなと思った。ベラは男性の心を操るかのように魅了していたし、性のことになれば男性は簡単にお金を動かす。
風俗などでは女性が選ばれる側としてあるけれど、お金を使わせられているのは男で、性が経済的な取引にまで介入してくるのだから、よくよく考えてみるとすごいことだなと思った。
今作でもベラがバクスターの元を飛び出していったのは新しい性の世界を知りたかったからで、性は人間の根底にあり、人間を強く動かす衝動になるのだと感じた。
ここでも、男が社会を動かすが女が男を動かすという言葉を思い出した。

少し捉え方が難しいと感じるところもあったけれど、独特な世界観と心を自由に突き進むベラの生き方は勇気をもらえるし、とても楽しめた。
あおは

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