きらきら武士

哀れなるものたちのきらきら武士のレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.1
3連チャン2番目

奇妙で複雑でエグくて完成度の高い映画
フリークス、クリーチャー感
神の「被造物」世界、箱庭感
19世紀ヴィクトリア朝のイギリス、ゴシックホラー
レトロフューチャー、サイバーパンクSF(脳中心の唯物論的世界観がマンガ『銃夢』とかなりかぶる)
盛り込んだ要素は数知れず。それでいてポップな全体的統一感。なんて完成度だ。

で、なんて物珍しさ
シネコンは現代の見世物小屋、のぞき穴か

ただ、直後はすごいもの、美しいものを観た!と興奮したのだが、後になるほど何も残っていない気もして、まさに見世物小屋をのぞいて終わりだったようでもあり。

ベラの本当の人生はようやく始まったばかり。ここからが本当の人間としての苦悩が待っているのだろうが、レディーフランケンとしてのベラの物語はゴドウィン・バクスターのエデンの園に復楽園して完結して閉じた。やはりどこか閉じた感じのする世界。

ちなみにゴドウィン=godwine「神の友」の古英語であり、バクスター=Baxter=パン職人、Bakeryと語源が同じ。
パンは「肉」の象徴でもあり、やはりこの映画は徹頭徹尾モノ、肉、なのだなと。被造物=クリーチャー。

脱線ついでに。
銃夢のノヴァ教授といい、手塚治虫のブラックジャックといい、神がかった天才科学者は人造人間とか合体生物作りがち。
ていうか、この世は何かしらaとbとかの合体で作られているな!とか盛り上がったり。

映画に戻る。

センス、イメージ溢るる映像のなんと秀逸なこと、実験的であること。
美しき、神の被造物たち。肉。モノ。世界すべてが。
私はそれらをそんなに「哀れなるものたち」とは思わなかった。現実にあるものの投影、或いは比喩や誇張にしか見えなかったからだ。だとすれば、観ている現実世界の人間どもこそ哀れなんじゃないか。

映画終わり、エンドロールに映される小物群がまた美しかった。
尾を引いて微かに鳴り続ける弦がまた余韻を引きずっていて実に耽美的で良い。

いや、音楽も実に素晴らしくて。レトロで幻惑的で、サーカスチック。
電子音は最低限、控え目に使用。
作品世界をガッチリ支え、高めている。
AppleMusicで音楽Jerskin Fendrixのサントラを聴いてるけど、これだけで一つのコンセプチュアルな音楽アルバムを聴いてるようでハマっている。これはもう、映画音楽としていきなり今年一番かもしれない。

あけすけで多過ぎる性描写含めて、何もかも高濃度高密度でもうお腹いっぱい。下品は下品だし。
でも噛んでも噛んでも新しい味がしてくるような気もして、やっぱりすごい複雑で完成度の高い映画なのだなと。

いつかまた人目を憚りながら観に訪れるだろう。この「のぞき穴」映画を。
その時に観るベラはまたどういう眼差しで私を見つめ返すだろうか。それが少し怖くもある。
結局、私はこの映画の肝心要の彼女の人生について語れる言葉を未だに持てずにいるのだった。

#2024 #13
きらきら武士

きらきら武士