あるぱか2世

哀れなるものたちのあるぱか2世のレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
3.9
【R18のバービー】

これまで、男たちの身勝手に翻弄され、蹂躙される女性像を描き、その不条理を告発する映画は何度も作られてきた。

しかし本作は似ているようでちょっと違う。
それは主人公・ベラが、欲望と絶望渦巻く世界を経験するなかで、自らの自由意志によって「人間」であることを実現しようとする姿を、シニカルなコメディタッチで描いているからだ。

ベラ自身、バクスターの興味本位によって一命を取り留め、「創造」させられたという意味では、いわば男の欲の果てに産まれさせられた存在といえる。

そして、成長とともに増していく性的関心を利用するかのように、彼女の肉体を我が物にしようとする男が現れ、翻弄されていく…。

かと思いきや、彼女はめざましい精神的成長を遂げたことによって、気づかぬうちにその男を返り討ちにしたのだった。

それでも彼女は、未だ男の作った欲望の世界にとらわれていることに気づかないまま、「自らの意思」で売春に手を出す。異形ともいえる男たちと対峙し、彼らを「哀れむ」ように接した末に、彼女は完全に聡明なひとりの人間になっていた。

自らの創造の秘密を知ってもなお、取り乱したりせずに、淡々と事実を受け入れ、そのすべての元凶となった男に対して、科学者らしい手段で「復讐」を果たす…。

科学者としての冷徹さを身につけ、復讐すらも過程でしかないと考えてそうな最終盤の彼女には、もう序盤の幼児のような振る舞いは微塵も感じられなかった。

この演じ分けをクドくならずスムーズに実現したエマストーンの表現力はキャリア最高レベルだと思う。
そして、マークラファロ史上最狂のゲス野郎から見事にヘタレへと転落させられる彼の演技にはクスクス笑わずにはいられなかった。

被害を受けて復讐を果たすという受け身の女性像ではなく、男性中心の社会のなかで自由意志で自己をつかみとる女性像を描いた本作のような視点は、いま放送中の大河ドラマ『光る君へ』にも通底している気がする。

こうした視点こそ、これからのトレンドになるかもしれないなあ。
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