あんず

哀れなるものたちのあんずのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.6
「人間とはなんぞや?」と鑑賞後もひたすら問われているような、後に引きずる強烈な作品だった。ベラという女性の成長物語という以上に人間の進化の過程を観察しているような気になり、時には目を背けたくなることも。エマ・ストーンの熱演があってこそ、成立したようにも思う。

私たちが他の生物と違う点は何なのか、ヒトという種に生まれたらそれだけで一般的にイメージするような(模範的な)人間になれるのか。ベラの冒険をスクリーンで観ている時には釘付けになったり、違和感を覚えていたことが、後になってこういうことを言いたかったのかな?と何度も考えさせられる。すごい映画だ。

衣装がどれも可愛く斬新、美術も素晴らしかった。そのお陰でエグいシーンも何とか観ていられた。私は、人工的に作り替えられた動物がとてつもなく怖かった。過去なのか未来なのか設定がよく分からず、お伽噺のような雰囲気も作品の毒性を和らげていた。

時折入る魚眼レンズを覗いているような映像は、誰かが覗いているようにも捉えられ、神様なのか、私たち(地球上の生命体)の全てを実験的に見ている地球外生命体とか、未来人とか深読みしてしまった。

お気に入りのシーンは船上の人たちとの出会いのシーン。ようやくまともな人間たちとベラが出会えたて嬉しかった。ここで読書や自分の頭で思考することや意見を交換することを学んで行く。

ベラの最終的な精神発達年齢が分からなかったけれど、まだ十分に相手の気持ちを推し量ることは学んでいないと感じた。作品全体を通じて、コミュニケーションとか行為が一方通行ばかりだったように思う。命を救う者と救われる者、実験する者とされる者、学問や知識を教える者と教えられる者、支配する者とされる者、虐待する者とされる者、施す者と施される者、性を売る者と買う者、哀れむ者と哀れまれる者……人間の最大の武器と思う、言葉を使った話し合いがほとんど行われていなかった。それから、美しいものを見て感動したり、芸術を愛する心の表現もなかったな。せっかく芸術の都パリにいたのに。美味しいと感動する場面はあったけれど。笑いやユーモアも見た記憶がない。人を愛する気持ちは、終盤に少し出て来たような気もしなくもないけれど。

タイトルの『哀れなるものたち』は作品だけではなく、全人類に向けている言葉とも受け取れる。原作があると知り、読んでみたくなった。
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