ドント

絞殺魔のドントのレビュー・感想・評価

絞殺魔(1968年製作の映画)
4.2
 1968年。実在した殺人鬼・ボストン絞殺魔の事件をフライシャーが撮るとこんなにも面白くなる。TSUTAYA発掘良品で掘り出された時に観てからの再見。何年ぶりになるのやら。当時観た時より圧倒的にすごさと面白味を感じた。
 画面が分割されるトリッキーな演出と長回しが平然と同居していて、しかも「ほら、どうです」といったてらいがない。全く悠然と、技に溺れることなくやってみせていてかなりビビる。前者の演出は中盤まで頻出し、観客の野次馬根性というかタブロイド紙を飛ばし読みするような感覚を狙っているように思える。ピシッ、パシッ、と様々なものが圧縮され速度がある。ネット時代のような感覚。
 その感覚を指弾するように映画は当時のスケベ野郎だらけの世相、セクシャル・マイノリティへの偏見(なので字幕はきちんと差別的な言葉遣いでやってほしかった)も映し出す。ついでに謎の超能力おじさんも現れて、まぁこれ史実なのだけどタイトで渋い本作ではこのおじさん、ちょっと浮いていたかもしれない。
 犯人役のトニー・カーティスが姿を見せる頃には画面分割は減っていく。しかしここぞという時に効果的に使われこれがビリビリ痺れるくらいすごいのだから困る。そしてこのトニー・カーティスだ。二重人格という役柄なのだが、いわゆる変態とか狂人の類型的な演技を彼はしない。つまり過剰に狂気を乗せることをしない。犯行の時も汗ばんでいる程度。代わりにスイッチが入った瞬間、すとんと何かが落ちる。人としての理性のようなものがサッと消えて人形のようになる。この演技は大変なものだ。
 彼の演技だけで白い飯が何杯もいける作品である。それだけではなしに当時のイイ顔の役者たち、前述の撮影や演出、さらに面談室での文字通りに息を飲むようなクライマックス、どれもこれもが素晴らしくてウワーッ、グワーッとなり続ける。凝っているのにシンプル、そんな矛盾を平然とやってのけている映画だ。すごいのだ。
ドント

ドント