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ザ・クリエイター/創造者のらのレビュー・感想・評価

ザ・クリエイター/創造者(2023年製作の映画)
3.8
AI対人間の戦いを描いた作品では、AIという脅威に人類がどう立ち向かうかという視点に立つことが多い。本作も一見その流れを継いでいるように見えるが、物語が進み主人公ジョシュアの気持ちが動くのに合わせて、視点は次第にAI側に移っていく。そこで強調されるのはAIから見た「人間の冷酷さ」である。ギャレス・エドワーズは「この映画そのものが『自分とは異なるとされる存在』のメタファー」であるとし、AIはそのモチーフであると言う。だとすれば本作は「自分とは異なるように見える存在を前にした時に人間がどうふるまうか」を描いたどこまでも人間的な物語であると言える。結局のところ、AI社会で真に問われるのも技術そのものより「人間のあり方」なのだろう。AIの是非はまだ誰にも分からないし、多くの問題も技術そのものではなく人間の使い方によって引き起こされるはずだ。
 
また本作が特徴的なのは「AIを撲滅しようとしているアメリカ」対「AIを保護しているニューアジア」という構図を用いているところである。ハリウッドの娯楽映画の中にこうした極端な構図を採用し、そのうえで明確にアジア側に肩入れしているところにギャレス・エドワーズらしい反骨精神を感じる。このような背景には、ベトナム戦争におけるアメリカ軍への批判的な視点もあると思われる。実際、物語やビジュアル面で『地獄の黙示録』を思わせる部分も多い。同時に『ブレードランナー』や『AKIRA』など多文化を融合させたSF作品からの影響も多く見られ、過去(歴史的な出来事や多くの作品)と未来と現在を接続して本作の世界観を構築していることがよく分かる。
 
SF大作映画はフランチャイズものが主流になった昨今、このクオリティのオリジナル作品を観られるということが何より嬉しい(映画館で観ればよかった)。大作と言っても見た目ほど予算はかかっていないそうで、そのあたりも今後の「大作映画」の基準を変えてしまうかもしれない。
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