こたつむり

突入せよ!「あさま山荘」事件のこたつむりのレビュー・感想・評価

3.9
1972年2月19日。
長野県山中のあさま山荘を連合赤軍が占拠した事件を“警察側”から描いた物語。

再鑑賞でありましたが…。
いやぁ。相変わらず濃い作品でした!実際に現場を指揮した佐々淳行氏の実録が原作ですからね。それを忠実に映像化しようとしている時点で説得力が違うのです。それは細かい部分…昭和の色を出そうとしている小道具一つ一つにも如実に表れていて。うんうん。やはり車はフェンダーミラーよね。

また、“男の職場”を描いた側面も熱い!
警視庁と長野県警の意地のぶつかり合い。うんうん。プライドを持って仕事をしていると、そうなる場合もありますよね。また、傍から見たら滑稽な席次争いも、ある世界では必要なこと。面子を大切にしない指揮官は部下を統率できないですからね。笑える一面、身に包まされる描写なのです。

そして“人質救出”という使命があっても。
彼らは“勤め人”でもありますからね。弛緩している場面も遠慮なく描かれるのです。それゆえに物語後半の突入シーンが活きてくるわけで。宿舎で何気ない会話を交わしているのも現実だし、刹那で命が途切れる現場に立つのも現実。それが陸続きであることがよく判るのです。

だから、救出に至る美談を期待すると。
肩透かしを食らうかもしれません。事件に至る背景はおろか、山荘に立てこもる犯人側の描写が一切無いですからね。「視点が一方的ではないか」と憤慨する方もいらっしゃると思います(というか、そういう憤慨を抱いて作られたのが『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』ですね)。

しかし、警察側からしたら描写が無いのは当然。
人質が無事なのか?
犯人たちはどのような場所に居るのか?
それらが解らないからこそ、緊迫感が生まれるし、決定権を持つ指揮官は頭を悩ませるわけです。

また、原作の主題は“危機管理”。
有事の際は指揮命令系統を一本化し、正確な情報が末端まで行き渡ることが死線を分ける…それが主題なのですね。ですから、実際の職場において小隊長クラス(会社だと係長…?)以上の立場ならば共感できる場面が多いと思いますよ(…中間管理職は辛いですよねえ…しみじみ…)。

まあ、そんなわけで。
当時の警察の奮闘と迷走を鑑賞したうえで、この事件の背景に興味が湧きましたら。次は『光の雨』もしくは『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』を鑑賞されると良いかと思います。そして、あの狂気を見てしまったら…昭和はセピア色で良い時代…なんて気軽に言えなくなるかも。
こたつむり

こたつむり