トンボのメガネ

突入せよ!「あさま山荘」事件のトンボのメガネのネタバレレビュー・内容・結末

3.3

このレビューはネタバレを含みます

面白かった。
警察内部の独特な空気感がビシビシ伝わってきた。浅間山荘事件から50年近くが経った今、警察組織はどのくらい変化を遂げたのだろう?

この映画の中で表現されていた欠点が、未だに色濃く残っているとしたら、現代の社会通念との乖離が深刻だなと感じた。
警察という組織から一般の会社組織に行くのは難しそうだな…と静かに思わされた。
そのくらい、他の刑事ドラマを見ても感じたことのないリアルさがあったように思う。

事件発覚後から、現地での捜査会議から既に警察の無能ぶりが露呈する。
視聴者はここで「ん?なんか想像してたのと違う?」と嫌な予感がするはずだ。

捜査の上では邪魔でしかない警察の縄張り意識や愚かな権威主義がチラチラと滑稽に挟みこまれ、人質の救出を心から願う視聴者は苛立ちを感じ始める。

警察庁長官から直々に今回の事件のまとめ役を仰せ付かる役所広司が演じる佐々氏の奮闘ぶり、と言うか苦悩ぶり?を見るに、トップから既に無能なのだと痛感させられる。

面倒なしがらみを上手く回避しながら事件解決の総指揮を彼にしか任せられないとの判断は素晴らしかった。だが、やらせるなら全権をちゃんと与えてやれよ…と怒りを感じるくらい現場が酷かった。

現場の最前線で対応している若き警官に対し、安全な特殊車両の中でヌクヌクと指示出し一つまともに出せない無能な上官達。
その対比が視聴者の苛立ちをピークにまで誘う。

トラブルが次から次へと降りかかる中、最前線の警官達の不慣れな様子をハラハラしながら見守り感じたことは、あの時って、こんなワチャワチャだったの!?

いつ死人が出てもおかしくないじゃん…
そんな予感が的中するように現場で1人、また1人と殉職者が出てくる中、祈るような気持ちで「役所さん!早く現場にきて、指揮してあげて!!」とこちらも役所広司頼みである。

この事件、役所広司演じる佐々淳行氏がいなかったら、どうなっていたんだろう…と考えるとゾッとする。

フィクションは多分に含まれているとは言え、有能な指揮系統の重要さを噛みしめる130分であった。

浅間山荘事件という根が深い題材で、犯人側の様子を一切出さず、ひたすら警察の無能ぶりを皮肉たっぷりに描いているこの作品。

役所広司の演技力なしでは、説得力を持ってエンディングまで観客を引率することは不可能だったであろう。
まさに佐々氏を演じるに相応しい役者であったと綺麗にまとめてみる。

見応えがあって非常に面白かったが、映画館で見たいか?と問われると疑問もあったのでスコアは3.3にしております。