榊ニル

変な家の榊ニルのネタバレレビュー・内容・結末

変な家(2024年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

原作を予習の上での鑑賞。まぁそこそこ面白かった。

映画向けの大幅な改変が数多くあったものの、物語の根幹に関わる部分は原作に忠実だったので、原作ファンも楽しめる作りになっていたはず。

一番目を引く改変要素としては、やはり主人公の雨宮(雨穴)が、片渕家と直接関わりを持って行くストーリー展開だろう。

原作小説は栗原さん・柚希との会話+調査資料だけで構成されている。それ故、変な家は間取り図を読み取るだけで、直接現地に赴く事はなかったし、片渕本家の面々も、柚希からの伝聞や資料を通して描かれるのみだった。これをそのまま映像化するとなると、余りにも地味で退屈な絵面になってしまう。

そんな課題に対し、制作陣も真摯に向き合ってくれたのか、変な家、片渕家共に惜しみなくビジュアルを出してくれたので嬉しい。まさか左手供養の祭壇すら作ってしまうとは。‥‥‥‥いやむしろ見せてくれと願っていたので期待通り。

主人公雨宮を、オワコン気味のYoutuberというキャラ造形にしたのも好印象だ。動画のネタになるからと変な家に不法侵入するし、謎の襲撃を受けても手を引く姿勢を一切取らない。しっかりと物語を引っ張ってくれる良い主人公だったと感じる。

みんな大好き栗原さんも、自分のイメージとはかけ離れていたが、これはこれでアリだと感じた。正直、佐藤二朗に対しては「ダラダラ面白くない事を喋るおっさん」というイメージが強かったので、キャスティング時点では不安しか無かった(絶対福田雄一のせい)。しかしいざ鑑賞してみると、"掴みどころのない変人"としてしっくり来るのなんの。抑揚の無い喋り方や、運動神経がバグっている様に見える不自然な挙動、どれも素晴らしい演技だった。

何より一番のお気に入りは、高嶋政伸演じる清次だ。乱れた前髪と、何を考えているか分からない不気味な表情で、クライマックスの緊張感を一層際立ててくれたMVPだとはっきり言える。本作を鑑賞するまで、私の清次のイメージは「金髪ツンツンアロハシャツのチンピラ」で、本作のイメージとは真逆だ。しかしあそこまでインパクトのあるキャラクターにされると、私の中にいるチンピラ清次は消えざるを得ない。あの役者、黒目がデカくて素の顔も怖いのよな。『暗殺教室』とか、映画自体はつまんなかったけど、鷹岡の怪演でお釣りは返ってきたし、是非今後もサイコキャラを演じ続けて欲しい。

柚希の母親を黒幕にしたオリジナル要素も嫌いじゃない。映画における柚希父の死因だが、おそらく母親が手にかけたのだろう。二本目の左手の出所もそれで説明がつく。諸悪の根源である片渕家本家と決別できたのにも関わらず、左手供養に縛られているという幕引き。これは雨穴作品特有の"謎は解けたが最後に遺恨が残る後味の悪いラスト"だったので、原作へのリスペクトを強く感じた。

とまぁ、役者陣の演技や脚本に対しては肯定の姿勢だが、いくつかマイナスポイントも話しておきたい。

まず最初に気になったのが、本作の目玉である、間取り図に隠された謎を解いていくミステリー要素。これが薄味になってしまっていたように感じた。というのも、間取り図が登場してから真相解明までの尺が短すぎるのだ。どの間取りに対しても、栗原さんが一瞬で謎を解いてしまうので、観客自身が謎と向き合う時間的猶予が一切用意されていない。何なら間取り図が映されるのも一瞬で、違和感を持たせる暇もなかった気がする。ミステリー小説は、答えが明かさせる直前で読むのを中断して、自分なりに推理する時間を確保出来る。この"読者自身の推理パート"もミステリーの醍醐味であるはずだ。しかし今回の映像化ではそれに値する"間"が無かったので、素直に残念な気持ち。せめて間取り図のアップを長めに映してくれるだけでも印象は変わっていたと思う。

またこの映画、悪い意味でB級ホラー的な演出が多かった。本作は言わば"因習モノ"に該当するので、ホラーテイストな作りにするのは賛成だ。ただ、過度なジャンプスケアやDJ松永の白目、カルト教団の行進などなど、絵面がどうもチープなんだよなぁ‥‥‥。終いにはババァチェーンソー(悪魔のいけにえ)や、清次の壁破壊(シャイニング)といった、名作ホラーパロディをぶっ込んで来るので、もはや狙ってやっているのかもしれない。ただ少なくとも私は、スベってると感じました。

あと登場人物の台詞回しが結構おかしかった気がする。柚希の"なのよ、だわ口調"、雨宮の中途半端なタメ口、DJ松永の「マジモンジャネェカヨ!」などなど、不自然な会話が多かった印象。そのせいでイマイチ話に集中出来なかった。

最後に、シーンの切り替わりが雑過ぎる。具体的に上げると、①雨宮が自宅で襲われて気絶してから目覚めるまで。②柚希が本家に泊まって目覚めるまで。③雨宮が清次に殴られて気絶してから目覚めるまで。この3点。どれも前後の流れをぶった切って次の展開を進めようとするので、そこまで難しい話でもないのに混乱させられた。なんでわざわざあんなカットにしたんだ?①はまだ理解出来る。襲ってきた人間が夢なのか現実なのか曖昧にしておきたいという意図が伝わる。ただ②、③はもっとうまいやり方あったろ。普通に意識ある状態で部屋なり牢獄に移動させられるで良かったよね?先述した台詞回しもそうだが、解釈違いとか抜きにして、単純に出来が悪いと受け取ってしまう箇所がチラホラあったのはいただけない。

総評、一際目立って粗い部分が多いものの、役者陣の怪演は見ていて楽しいし、原作との差別化はしっかり出来ていた良作でした。


もっと良い演出家雇ってくれるなら、劇場版変な絵、変な家2も見たいな。というか、雨宮&栗原さん不可解な事件を解決していくバディドラマとか作ってほしい。原宿さん。企画立案お願いします。
榊ニル

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