くりふ

密輸 1970のくりふのレビュー・感想・評価

密輸 1970(2023年製作の映画)
3.5
【韓流ブラックあまちゃん】

ある評判を聞いて劇場へ。物量戦の海洋アクションかと思ったら、違った。幹にあるのはひとの葛藤。

女二人の確執を柱に、騙し合うコンゲームへと転がるのが中盤まで。それがチカラのぶつかり合いに砕け、闘いは“海の底”へと移るが…という流れで、スケールは小さいが、オモロかったよ!

舞台を1970年代半ばにした真意はわからないが、朴政権が進めた急激な工業化による漁業への打撃…というのは実際、あったのでしょう。現実には、出稼ぎに行く海女さんが多かったらしいけど。

一方、外国船から10年間もテレビやミシンなどを密輸した事件も当時、あったそうで、企画のヒントとなったようす。本作でも、日本製TVが段ボールで海に投げ込まれるが…アレ防水処置ダイジョブなの?

映画は最終的に、海女さんをリスペクトしているが、韓国での海女さんの歴史をかじってみると、犯罪に手を染めないと相応の対価を受け取れない…というこの物語には、素直に喜んでいいのかわからない。

日本との確執もありますね。日韓の海女さん同士、出稼ぎで行き来していた時代もあったそうだが。

昔々、007であったような、半ば荒唐無稽な“海中戦”に、よくも悪くも最後で逃げたのは、エンタメとして着地させる最善策だったのかなあ…。サメ映画かよ!というツッコミが来るのも折り込み済みか?

海女スキルで闘う!ことをヤマ場としたのは、納得の展開でしたが。

海女さんという職業に、どうしても女性搾取が透けてしまうのは切ない。その構造がなければ、本作の物語も成立しないのだけれど。管理役に女性が登場しないのは、やっぱり時代のせいだろうか?

が、中心にある女二人の描写は性差別に関係なくしっかりしており、キム・ヘス、ヨム・ジョンアの演技が堅固に、物語を支えていました。中年女性二人で堂々、エンタメできるのが韓国映画の地のチカラ。

『モガディシュ』のリュ・スンワン監督は、男らしさを売る視点も忘れていないね。ぶっちゃけ要らんのでは?とも感じるが、男の“カチコミ”も加えてちゃんと、盛り上げている。

元々がコテコテの韓国映画で、70年代風俗は半ばギャグにも映るが、ずっと惹きつけてくれ愉しい!キム・ヘスは昭和視点だと山本リンダだ!www が、個人的には音楽含め、ブラックスプロイテーション味が加わったのが嬉しくて。その意味からは彼女、パム・グリアにも見える。…おおおっぱい含めて!

この物語だと、韓国で深刻になっている海女さん不足への助けにはならないと思うが、海女さんのパワーと魅力はしっかり、担保されていた。次は、本格・正統的な海女さん物語を見てみたいですね。

<2024.7.19記>
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