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ダム・マネー ウォール街を狙え!のBluegeneのレビュー・感想・評価

3.8
私は株取引に詳しくないので、「マネー・ショート」の時も「株価が下がるほど儲かる」という仕組みがいまいちわからなかった。

おさらいしよう。「空売り」とは:

手元に持っていない株式を、信用取引などを利用して「借りて売る」ことを指します。 株価が高く、これから下がることが予想されるときに空売りをして、その後予想通り株価が下落したところで買い戻して利益を得るものです。(by SMBC日興証券)

いやーやっぱりわけわかりませんねw株って、値上がりすることを期待して買うもんじゃないの? 誰がこんなことを考えついたんだ、悪魔か?しかしウォール街を跋扈する魑魅魍魎はこうした謎取引で何億ドルも稼ぐのだ。そしてタイトルの「ダム・マネー(おバカなお金)」とは、「値上がりすればいいな」と期待して庶民が投資するなけなしのお金を、そうした化け物どもが嘲る言葉なんである。

この映画は、SNSとトレーディングアプリを通して個人投資家が繋がり、空売りを仕掛けていたヘッジファンドを大損させた実話がベースになっている。作中に「ハイエナだって協力すればライオンを倒すことができる」というセリフが出てくる通り、この騒動でヘッジファンドのメルビン・キャピタルは破産に追い込まれている。

主人公のキース・ギル(通称キャット)や、彼とRedditの掲示板で繋がった人たちはごく普通の庶民だ。離婚したシングルマザー、ゲームショップのアルバイト店員、奨学金ローンを抱える大学生ーー投資についての情報も乏しく、「ゲームストップ株にオールインした」というギルの言葉に釣られて買う人が増えると徐々に株価は上昇し、ある時を境に株価は8倍に高騰する。この頃にはゲームストップ株の値動きは社会現象として報じられ、SNSで繋がった人たちはある種の連帯感と使命感を持って株を「ホールド」する。自分たちの大切な労働の対価を「ダムマネー」と嘲るウォール街の億万長者にひと泡吹かせてやろう、と。

この辺りの、まったく面識のない人たちがSNSを通じて連帯していく様子はなかなか胸熱なんだが、一方、「違反投稿が多い」という理由で掲示板が閉鎖されると一気にバラバラになってしまう危うさも描かれる。この掲示板の閉鎖や、彼らが使っているトレーディングアプリが突然ゲームストップ株の買い注文を停止するといった動きは、なんらかの圧力がかけられた可能性を示唆するが、けっきょく法的な措置が取られることはなかった。しかし小口の投資家でも数が集まればヘッジファンドに対抗できると証明されたために、空売りを仕掛ける動きにはブレーキがかかったという。

作中ではギルは理想化されてるけど、素人を煽って株価を操作しようとしたらうまくいきすぎて大ごとになった、というのが本当のところじゃないだろうか。ギルに釣られて甘い夢を見て大損した人もいるだろうと思うと、映画としては面白いがちょっとモヤっとした感じが残るのだった。
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