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12日の殺人のBluegeneのネタバレレビュー・内容・結末

12日の殺人(2022年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

若い女性が生きたまま焼き殺されるという、マスコミが飛びつき、ワイドショーが1週間くらい騒ぎそうな事件を、捜査する刑事の視点から淡々と描いた作品。「落下の解剖学」同様、真相はわからないのでミステリとして見ると肩透かしを喰らうかも。

作中、マルソーという中年刑事のプライベートな問題がしばしば出てくるのだが、これが「妊活に成功しないまま、いつのまにか妻に愛人ができて妊娠してしまい、離婚を持ち出された」というもので、「プロなら事件に集中しろよ」とイラついてしまった。マルソーは警察という男性社会にいかにもいそうなマッチョな男で、捜査でもしばしば暴力的な態度をあらわにするが、「本当はフランス語の教師になりたかった」と洩らす繊細な面を持っている(ヴェルレーヌの詩を引用したのも彼だったかな?)。そんなふうに男らしさの呪縛を内面化したマルソーにとって、子供を作れないのは男性としての能力を否定されたもの同然で、最後にその苦悩を容疑者のDV男にぶつけてしまう。彼の怒りのボルテージが上がっていく様子は、殺人犯が犯行に至るまでの心の動きをなぞったようにも感じられた。

結局3年後の再捜査でも犯人は見つからないのだが、マルソーの代わりに若い女性刑事がチームに加わって新しい視点を提供したり、捜査再開を指示したのが女性の判事だったりと、環境が確実に変わっていることも描いている。主人公のヨアンも、マルソーも呪縛から自由になった。「男が起こした犯罪を男が捜査する」と女性刑事が指摘したが、そういう時代は終わりつつある。
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