格闘技全般が苦手なのでこのフォン・エリック一家のことも知らなかったのだが、トレイラーを見て面白そうだったので前提知識ゼロで見てきた。
いやー本当に呪われた一家としか思えない…昨今、教育虐待というものが知られるようになったが、この一家の息子たちが晒されたのも一種の洗脳と虐待と言えるだろう。唯一、ケヴィンだけが逃げ切れたのが、父の期待に応えられなかったからというのも皮肉である。
「男なら強くなって家族を守れ」「家族が全てだ」と息子たちに叩き込む父親のフリッツが、実はまったく家族を守らない、どころか兄弟同士の競争を煽り、たくみに自分の望むように操っている。母親のドリスは愛情深いけれど夫に対峙することはない。こういう典型的な家父長制の価値観で育ち、男らしさに囚われて破滅していく男の話は語り尽くされてる。ただ、この作品では破滅する男ではなく逃れた男を主人公にしたところがキモ。
ケヴィンの「男らしさの呪い」はリック・フレアーとの試合で解けたのだと思う。プロレスのタイトルに必要なのは単なる「強さ」ではなく「ショーマンシップ」だ。だからトークが上手く華のあるデイヴィッドや、幻の五輪代表のケリーが「世界最強の男」に名乗りをあげられた。父が信奉してきた「強い男」の本質がレスラーとしての能力とは全然別のところにあると気づいたとき、ケヴィンから憑き物が落ちたのだ。
終盤、ケヴィンはあっさりと父を地面に打ち倒すが、それよりも「食事は作ってないわ、食欲がないから」と言って絵を描き続けるドリスの方がフリッツへのダメ出しとして痛快だった。モーラ・ティアニー、家族を支える信心深い糟糠の妻役にピッタリだったな。
ケヴィンの恋人役でリリー・ジェームズが出ていて、知らなかったのでちょっとびっくりした。
