さわだにわか

君たちのことは忘れないのさわだにわかのレビュー・感想・評価

君たちのことは忘れない(1978年製作の映画)
4.5
含蓄に富んだ邦題はオリジナル通りなのか違うのか分からないが素晴らしいもので、その語感から最初にイメージしたのは戦没者式典かなんかで政治家がもったいぶった偽善的な演説を垂れている光景だったが、映画を見るとダブルトリプルのミーニング、兵隊に取られた息子たちが忘れられない母親の話でもあり、同胞を見捨てて一人だけ兵役を逃れた過去に苛まれる若者の話でもあり、恋人の喪失を嘆く男(たち)の話でもありで、銃後の精神的な戦争被害の諸相を重層的に描いて、それら全てに対して「君たちのことは忘れない」、鎮魂の言葉であった(そりゃそうだろう、とか言わないで)

戦争状況がもたらす二重意識の中でその矛盾に耐えきれずに引き裂かれていく人々の悲劇のモザイクっぷりがとにかく最高。戦争に前線も銃後もないし生きてるものも死んだものもない。死んだものが生きているもの蝕むし生きているものが死んだものを踏みにじる。よき隣人でありつつ相互監視の疑心暗鬼に陥る人々。片手で死者を弔いながらもう片手で生者を前線に送り出す教会の偽善。罪なき死が横行する一方で罰を求める人間に罪は与えられない。一種の不条理劇の趣きもある。

クストリッツァの『アンダーグラウンド』とは結構共通するところが多かったかもしれない。こちらの方はもっと大衆文学寄りの作劇なのでわかりやすい。序盤サスペンス、間に農民ポエムとメロドラマを挟んで終盤は民話の世界でふしぎな余韻。
重厚な映画だ。こういうのを世界の名作とか呼ぶんだろう。
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