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ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディのchunkymonkeyのレビュー・感想・評価

5.0
「サイドウェイ」「ネブラスカ」のアレクサンダー・ペイン監督最新作。これは今年の新作でダントツ一番よかったし、笑って泣いて最高の傑作クリスマス映画です🎄社会の不平等と人生の不確実性を温かなクリスマス精神が包み込みながらも、映画的な安直さとは断じて無縁で、だからこそリアルで心に響く作品でした。地味系作品が絶対苦手というわけでなければ、ぜひ鑑賞してほしいです。

1970年のクリスマス休暇、舞台はアメリカ・ニューイングランド地方で特権階級の子供たちが通う全寮制の名門進学校です。まあ進学校といっても、白人エリートである多くの生徒たちは、親のコネでどこでも好きな大学に行けるので、勉強の方はさっぱりで... 休暇中はもちろん皆実家に帰ってクリスマスを過ごすはずが、諸事情で寮に残ることになるのがタイトルの居残り組"The Holdovers"です。

そんなこんなで、母親からお荷物扱いされ離婚した父に会いたくて仕方がない生徒のアンガス、労働者階級の出身ながら同校の卒業生である嫌われ者の歴史教師ポール、亡き息子が数少ない同校の黒人卒業生であったカフェテリアのメアリーの3人が誰もいなくなった学校でクリスマスを過ごすことになり...

離婚した父が恋しい男の子、意地悪教師が実はいい人、寄せ集めのデコボコな人たちが家族のような関係になって... ってなんかいかにも陳腐な映画っていう感じの設定やな、と思わせておいての全く陳腐なんかでなく、かつリアルで共感性の高いこの唯一無二の素晴らしさ✨

ポールがなぜ生徒たちにきつく当たるのか、そしてなぜ孤独を選ぶのか、アンガスが母の再婚を受け入れられない事情、そしてメアリーの悲しい物語。少しずつ明かされていく背景が本当にリアルで説得力があって、彼らの言動一つ一つに強く共感できるとともに痛感させられる、社会がいかに不平等で不公平であるか、そして思い描いた人生というのがいかに脆くある日突然崩れ去るのか。

そんな残酷な人生の犠牲者となり心を閉ざしていた彼らが、クリスマス精神に則り互いの痛みに共感し、互いにユーモアで心を温め合い、そして互いのために一肌脱ぐ。でも決してご都合主義の大団円ではなく、徹底したリアルな描写だからこそこれが本当に感動するんよ。

オープニングのスタジオのロゴに始まり、セットの細部に至るまで、1970年の完璧な再現がすごい!映像もめちゃくちゃきれいで、温度感までこちらに伝わってくる。さりげないけど劇伴もよかった。そしてなんといっても脚本で、各人の重めの設定も過度に感傷的にならず、コメディ要素でしっかり笑わせながらも描きたいテーマの邪魔もさせない、見事なまとめ方です。

恐らく当て書きと思われるポール役のポール・ジアマッティ(サイドウェイ)のはまり役具合が最高。いかにもな意地悪教師ぶりと茶目っ気のある表情が見事に溶け合ってこれぞ愛すべき頑固オヤジ😊アンガス役の新人俳優ドミニク・セッサも自然な演技がとてもよく、今後注目したい。そして一番よかったのは、メアリーを演じたダヴァイン・ジョイ・ランドルフ。非常に重く悲しい背景の役なのですが、チラッと差し込むユーモラスなセリフがキマッテる!この3人、映画史上まれにみる最強の素敵な"家族"でした。

クリスマス・シーズンに毎年観たくなる作品に出会えて、アレクサンダー・ペイン監督に心から感謝です。

予告編
https://youtu.be/AhKLpJmHhIg

2023年新作お気に入りランキング(10/30暫定)
1位:The Holdovers (本作)
2位:Past Lives
3位:キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン
4位:バービー
5位:AIR/エア
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