KengoTerazono

音のない世界でのKengoTerazonoのレビュー・感想・評価

音のない世界で(1992年製作の映画)
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「音のない世界」を映しているからこそ、音がとても重要な作品だと思う。インタビューを受けている人間は喋らないことが多い。その分フレーム外の音声が際立つ。世界の中に音がない瞬間はないということがわかる。静かな状態はあれど、マイクを通せばそこに音は存在する。声がしないから音がないわけではなく、布が擦り合わさる音や息遣いが、その人の感情を如実に伝える。

ナラティブも印象的だった。子どもの教室を映す時、まず場所の全景から入り、教室の窓をあおりでクロースアップする。そこに子どもたちの元気な声が被さり次のショットで子どもたちが発音の練習をしている。彼らの世界へと敷居を跨ぐ過程が丁寧だと思った。

キャメラが近づくのではなく、子どもの方から近づいてきて、超クロースアップになるのが印象的。
「天気がいい」という意味のIl fait beau のbeau は「晴れ」という意味だが、それをろうの子が「綺麗」という意味にとっていたのをみて、「それフランス語初心者がよく間違うやつだ」とちょっと嬉しくなった。私も間違えたことがあるので、勝手に共感しちゃった。

年齢や症状等、その人個人個人によってろうに対する向き合い方が異なるのが面白い。マジョリティにとっては一括りにろうなのかもしれないが、どの程度聴こえるかは人によって異なるし、年齢によっても聴こえないことに対する向き合い方は異なる。私たちは聴こえることが普通だが、ろう者にとっては聴こえないことの方が普通なのだなという当たり前のことを思い知った。
外国人と手話で会話する時、2日あればなんとなく相手の手話が分かるというのが面白かった。

手話にも日本語字幕がついていたが、原語版だとどうなのだろうか。ついていない気もする。ついていなかったらそちらの方も是非観てみたい。
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