サマセット7

オカルトのサマセット7のレビュー・感想・評価

オカルト(2008年製作の映画)
3.2
監督・脚本・出演は「コワすぎ」シリーズ、「貞子vs伽倻子」の白石晃士。
主演は「罪の声」「殺人ワークショップ」の宇野祥平。

カメラマン兼ディレクターの白石晃士(白石監督が同名で出演)は、観光地・妙ヶ崎で起こった通り魔事件のドキュメンタリー作成のため、被害者や遺族の話を聞いてカメラに収める。
そんな被害者の1人江野(宇野)は、犯人に刺されて奇妙な傷跡を負ったといい、事件後、数々の奇妙な体験をしているという。
白石は、ネットカフェで生活する江野に密着取材を敢行するが、徐々に不可思議な現象に巻き込まれていき…。

白石晃士監督が、戦慄怪奇ファイル・コワすぎシリーズ(2012〜)を撮る前の2009年に発表した作品。
先行する「ノロイ」や後の「コワすぎ」シリーズ同様、POVのフェイクドキュメンタリー形式をとる。

コワすぎ最終章に、今作に関連するキャラクターが出ると聞いたため、予習として視聴した。

通り魔事件の裏側に、超自然的なナニカが介在しているのではないか、という疑問をもとに、白石視点で物語は進む。
通り魔はナニに犯行に導かれたのか?
そして、通り魔からナニカを引き継いでしまった江野が見聞きしているモノとは何か?
江野は、最後、どこに導かれていくのか??

こうした謎は、しかし、途中から割とどうでもよくなってくる。
今作で圧倒的な印象を残すのは、江野のキャラクターである。
彼が、とにかく、ウザい。
ここまでウザいキャラクターが描ける監督の力量に唸らされる。
自分を棚に上げた言動、思い込みの激しさ、調子に乗りやすさ、共感性の驚くべき乏しさ。
中盤の飲み会のシーンでは、私がこれまで観た飲み会シーンの中で、もっともウザい絡み方を見せてくれる。
名バイプレーヤー宇野祥平の演技はこれ以上なく素晴らしいが、全編このキャラクター中心に描く点は、好みが分かれるだろう。
個人的には、ウザさが閾値を超えていた。

いわゆるモキュメンタリー形式だが、怪奇現象の演出は恐ろしくチープで、(カラスのシーンなど一部例外を除き)リアリティに乏しく、全く怖くない。
これは恐らく狙ったもので、今作を観ると、江野のキャラクターも含めて、気味悪いけど、どこか可笑しい、という変わった気持ちになる。
この感覚をさらに進めたのが、コワすぎシリーズなのだろう。

今作は、通り魔事件や無差別殺人、都会のネットカフェ難民や派遣労働者の貧困問題など、公開当時の社会問題をネタとして取り込んでおり、一定の社会批評性がある。
今作はテーマとしては、「通り魔」の心理をオカルトというオブラートに包んで活写する、という点にあろうか。
江野の執拗なウザ描写や物心の貧困描写は、このテーマとの関連で意味をなすのかもしれない。

3年後のコワすぎシリーズと比較すると、同じモキュメンタリーだが、撮影クルーや主演のキャラクターの魅力や、明らかに意図的にジャンルの飛躍を用意する手際、笑える中にもゾッとする演出を混ぜ込むなど、コワすぎシリーズの方が優れているように思う。
今作の経験を活かして改善したのが、コワすぎシリーズなのだとわかる。

キャラクターのウザさが光る、フェイクドキュメンタリー作品。
黒沢清監督のカメオ出演には驚いた。
そこそこセリフもあるが、自然な演技を見せてくれる。