サマセット7

トランスポーターのサマセット7のレビュー・感想・評価

トランスポーター(2002年製作の映画)
3.7
400レビュー目。
監督は香港映画の監督や「ロミオマストダイ」のアクション監督などで知られるユン・ケイと、「インクレディブル・ハルク」「グランド・イリュージョン」のルイ・レテリエ。
主演は「エクスペンダブルズ」「ワイルドスピードEURO MISSION」のジェイソン・ステイサム。
製作・脚本は「レオン」「ニキータ」のリュック・ベッソン。

[あらすじ]
元軍人の凄腕の運び屋フランク・マーティン(ステイサム)は、「約束厳守」「名は明かさない」「預かった荷物は開けない」の3つのルールを厳格に守ってきた。
しかし、彼が3つ目のルールを破ったことから、トラブルが次から次と彼を襲い…。

[情報]
2002年仏米公開の、仏米合作映画。
1998年の「ロック、ストック&トゥースモーキングバレルズ」で映画デビューを果たしたジェイソン・ステイサムが、一躍名を売った作品であり、彼の代表作シリーズの一作目である。

ジェイソン・ステイサムは、イングランド出身の俳優だが、元は水泳の飛込競技の選手で、一時はイギリス代表チームにも所属していたという(五輪出場経験はなし)。
水泳引退後、モデルに転向し、1998年、モデル契約していたブランドの縁で俳優デビュー。
その後ジェット・リーとの共演(「ザ・ワン」2001)を契機にアクション俳優としてのキャリアを開始する。
アスリート出身ならではの鍛えられた肉体と本格アクションを持ち味とし、キャリア初期の今作でもそのキレのあるアクションが存分に見られる。
今作以降、ミニミニ大作戦、アドレナリン、エクスペンダブルズ、メカニック、ワイスピシリーズ、MEGザ・モンスターなどなど、ジャンルど真ん中のアクション映画に、次々と出演しており、現代でも指折りのアクション俳優として認知されている、と思われる。

製作・脚本のリュック・ベッソンは、ニキータ、レオン、フィフスエレメントで90年代にフランス映画界の巨匠して認知された後、活動の中心をプロデュースに移行させた。
1997年の「TAXI」をはじめ、今作や「96時間」など、気軽に楽しめるアクション映画を次々と送り出し続けている。

今作はいわゆるポップコーンムービーに属する作品で批評的な評価はジャンルなり。
一般大衆からはなかなかの支持を得ている。
日本人向けの好きなアクション映画のランキング/アンケート記事などで、上位に選ばれていることが多い。
今作は2100万ドルで製作され、4300万ドル強の興収を上げた。
マーケティング費用も考慮するとプラスマイナスゼロ、という勘定だが、シリーズ化されているところを見ると、製作者的には成功、という評価なのであろう。

[見どころ]
ジェイソン・ステイサムの肉体!切れ味鋭いアクション!
運び屋映画だけあり、カーチェイスに力が入っている!
何も考えずにスカッと見られる、ポップコーンムービー!

[感想]
サクッと見られるアクション映画。
90分の上映時間も好ましい。

冒頭、運び屋ステイサムが3つのルールを厳格に守るプロフェッショナルであることが、マンガ的に繰り返しアピールされる。
冒頭10分のカーチェイスは、いきなりクライマックスだ!!
このシーンは工夫が凝らされていて、グッと掴まれる。
高架からの車ごと落下シーン!!

しかし!
ステイサムは、その後、いきなり自らに課したルールをあっさり破り、その代償として、ファム・ファタール的なアジア人美女(台湾の名女優スー・チー)のトラブルに巻き込まれる。
運び屋という設定からは逸脱し、後の96時間やジョン・ウィック、イコライザーもびっくりの超人的なトラブルシューターと化する。

「トランスポーター」というモチーフは、潔く放り投げられ、観客を惹きつけるための擬似餌だったことが判明する。
その後は、安定の、それこそ何百、何千と繰り返し作られてきたであろう、「B級アクション映画」のフォーマットに乗って物語は進み、決着する。
ヒロインや刑事とのやりとりはあるが、あくまで添え物。
作品の中心は、アクションそのものだ。

次々と繰り出されるアクションの中には、いくつか面白いアイデアが見られる。
特にタール(?)様のドロドロ、ヌルヌルの粘液に塗れて、男たちが一大格闘戦を繰り広げるシーンは、名シーンにして迷シーンとなっており、なかなか印象に残る。

ジェイソン・ステイサムは、アスリート出身だけあり、カンフー映画の達人たちにも劣らないほど体が動く。
彼のアクションそのものが今作の魅力だろう。
風貌のセクシーさも込みで、眼福な作品だ。
彼が縦横にアクションを見せている点のみをもってしても、ファンが多いのが頷ける。

全体としては、よくあるアクション映画の一つで、ものすごく印象に残る作品、というわけではない。
とはいえ、これはこれでいいのではなかろうか。
ステイサムが、走ったり、跳んだり、泳いだりする。
時には鍛えられた肉体を見せつけつつ、華麗な足技を繰り出す。
これ以上、何を求めるというのか?

[テーマ考]
今作は、「凄腕の運び屋」というモチーフで客を呼びつつ、実態は、ジェイソン・ステイサムの華麗なアクションをふんだんに見せつける作品である。
テーマは、「ステイサムを見よ!!!」と言って良い。

真面目に考えると、今作でステイサム演じる主人公とヒロインのライが立ち向かう陰謀である人身売買は、特に80年代から以降、継続的にヨーロッパで社会問題になっていた。
今作公開のゼロ年代においても、アジア、アフリカ、中南米、東欧の幼児の、ヨーロッパにおける人身売買は、引き続き巨大な国際問題であり続けており、時事的な関心がうかがえる。

スー・チーの抜擢には、今見ると何らかの意図を疑いたくなるが、チャイナマネーがハリウッドを覆うのは、もう少し後の話。
大体、スー・チーは台湾の女優さんだ。
どちらかと言うと、2000年前後のリュック・ベッソンの関心やビジネスの志向が、アジアに向いていた、ということかと思われる。
この頃彼はWASABI、キスオブザドラゴン、ダニーザドッグなど、アジアンテイストのある作品のプロデュースを多く行っている。

[まとめ]
ジェイソン・ステイサムのアクション俳優としての魅力が大いに盛り込まれた、運び屋ものB級アクション映画の代表作。

シリーズは4作を数えるが、作品を重ねる毎に評価が落ちるのは、この手のシリーズのお約束だ。
シリーズを追うか追わざるか、それが問題だ…。