サマセット7

マーベルズのサマセット7のレビュー・感想・評価

マーベルズ(2023年製作の映画)
3.8
MCU33作品目の劇場用映画作品。
監督は「リトルウッズ」「キャンディマン」のニア・ダコスタ。
主演は「ショートターム」「ルーム」のブリー・ラーソンと、「ビールストリートの恋人たち」「キャンディマン」のテヨナ・パリスと、ドラマシリーズの「ミズ・マーベル」のイマン・ヴェラーニが務める。

[あらすじ]
宇宙にて、ニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン)の元でsa研究・調査をしていた特殊能力に目覚めたばかりのモニカ・ランボー(テヨナ・パリス)。
遠宇宙にて最強ヒーローとして活動していたキャプテン・マーベルことキャロル・ダンヴァース(ブリー・ラーソン)。
そして地球・アメリカの自宅で過ごす女子高校生にして新人ヒーローのミズ・マーベルことカマラ・カーン(イマン・ヴェラーニ)。
彼女たちが偶然にも同時に光のパワーを使用した時、なぜか彼女たちが時空を超えて入れ替わってしまう!!
原因を探る彼女たちは、クリー人を率いてカマラと同じバングルを操るダー・ベン(ザウイ・アシュトン)の計画を知ることになり…。

[情報]
マーベルコミックのヒーローたちの活躍を紡ぐ大河シリーズ、マーベル・シネマティック・ユニバースは31作目からフェーズ5に入った。
今作は、全体の33作品目。フェーズ5に入ってから3作目の作品である。

MCUはフェーズ3の「アベンジャーズ/エンドゲーム」にて一つのサーガに区切りがつき、フェーズ4からは新章に入った。
フェーズ4では新キャラクターの大量顔見せ、ディズニープラスで配信されるドラマシリーズとのクロスオーバー、新章のメインモチーフであるマルチバースの紹介などが展開された。
続くフェーズ5では、マルチバースに迫る危機の正体が明かされ、フェーズ4で顔見せされたヒーローたちがチームとなっていく姿が描かれることが想定される。

まさしく今作はメインキャラクターである3人の女性ヒーローが、チームを組む作品である。
21作目「キャプテン・マーベル」(2019)で登場したアベンジャーズ最強のヒーロー、キャプテン・マーベル。
同じく「キャプテン・マーベル」で登場したマリア・ランボーの娘にして、ドラマシリーズ「ワンダヴィジョン」(2021)にて超能力に覚醒したモニカ・ランボー。
そして、ドラマシリーズ「ミズ・マーベル」(2022)で初登場した女子高校生ヒーロー、ミズ・マーベル。
キャプテンマーベル以外の2人はドラマシリーズで確立されたキャラクターである。

今作の舞台はほとんどが地球以外の惑星、または宇宙船内となっている。

今作は、アフリカ系の新進気鋭の女性監督であるニア・ダコスタによって撮られている。

今作の製作費は1億3000万ドル程度とされている(マーケティング費用も込みで2億7000万ドルとか)。
他方興収は2億ドル程度。
これはMCUが隆盛する前の作品である「インクレディブル・ハルク」以下であり、MCU史上最低の成績となってしまった。

批評的な評価も、MCUにしてはそれほど高くない。
他方で観客からは一定の支持を得ており、MCUの平均点は取れているようだ。

[見どころ]
タイプの異なる3人のメインキャラクターたちが、トラウマや憧れを乗り越えて、やがてチームとなっていく!!!
彼女らがクルクル入れ替わるアイデアの面白さ!
シリアスの後に突如現れる、シュールでコミカルなシーン!
アラドナのコミュニケーション!!!
絶体絶命の危機における、ニック・フューリーの脱出作戦!!!!
MCUおなじみの、ミドル/エンドクレジットでのサプライズ!!!

[感想]
まずまず楽しんだ!

アベンジャーズ最強のキャプテン・マーベルを主役に据えた作品だけに、スケールは種の絶滅や恒星系の危機を描いた大きなものだ。
シリアスな展開もある。
しかし、作品のテイストは、あくまでおバカなコメディである。

コミカルな味の多くは、カマラ・カーンに依っている。
ドラマシリーズではご当地ヒーローに過ぎなかった彼女は、今作のヴィランが操るバングルと対になるバングルを持っていることを理由に、宇宙を股にかけた戦いに巻き込まれる。
しかし、憧れのキャプテン・マーベル(名前をパクったほどだ)と出会えた彼女は感激し、ヒーローたちと共に戦うことに誇りを感じる。
前向きで、ウジウジせず、明るく、楽しく、元気よく!!
両親と兄のとぼけた味もよい。
これからのMCUは、彼女中心に回っていくかもしれない。

宇宙を股にかけたスペオペ的世界観。
ヒーローとヴィランの超能力バトル。
これらは、最近のMCUでよくみられるもので、特に新規性はない。
もはや食傷気味ですらある。
CGを駆使したアクションも、いつもどおり楽しいが、特に感銘を受けた点はない。

やはり3人のメインキャラクターの深掘りが、今作の大きな魅力だろう。
人間離れして見えたキャプテン・マーベルの、意外な人間臭さ。
過去のキャロルとの別れに憤り、母を失ったトラウマが晴れないモニカの戸惑い。
2人の間の蟠りは、カマラの明るさのおかげで、徐々に解れていく。

今作には、いくつかの、相当印象に残る面白いアイデアやエピソードがある。
結局、今作は、惑星アラドナの謎の文化と、フラーケンが出てきた作品、として記憶に残るような気がする。

MCUの慣例通り、クレジット中や後のサプライズは健在だ。
今後の展開が楽しみになる。

斯様に楽しい作品だが、期待通りの興収を上げられなかったのはなぜだろうか。
33作にもなり、みんながMCUに飽きてきた、ということもあろう。
ドラマシリーズが前提となる点が、ディズニープラス未加入勢の嫌気を誘った、ということもあるかもしれない。

個人的には、ディズニーの戦略上、今作の売上低迷は、当然の結果のように見える。
ディズニーは、フェーズ4以降、ディズニープラスで配信されるドラマシリーズを大量に制作。
劇場公開作品とも積極的にクロスオーバーさせた。
その結果、ディズニープラスに入る気のない未加入勢は、映画についていけなくなった。
他方、ディズニープラスに加入した人たちに何が起こったか。
大量の、玉石混交のドラマたち。
出来の悪いドラマに、長時間付き合うとだんだん飽きてくる。
そして、公開後、瞬く間に配信に加わる劇場作品。
どうせディズニープラス加入しているし、すぐ配信されるのだから、わざわざ劇場まで行かなくてもいいか。
と思った人が多かったのではないか。
配信まで待つ人たちを大量に増やしたのは、まさしく、ドラマシリーズを多数作って、ディズニープラス加入を推進したディズニー自身なのだ。

[テーマ考]
今作は、一見おバカなコメディ・ヒーローアクションに見えて、いくつかのテーマを描く作品でもある。

まず、今作は戦争の本質を描いた作品だ。
誰もが、誰かを救うため、別の誰かのものを奪う。
ある正義が、別の正義を喰らう。
それが戦争だ。
キャロルとダー・ベンの関係は象徴的だ。

また、今作は、家族の絆を描いた作品でもある。
カマラと両親と兄。
キャロルとモニカ。
モニカの、キャロルと失敗を受け入れるセリフが印象に残る。
大変な時に、そばにいてくれるのが,家族だ。

[まとめ]
3人のヒーローの共闘が楽しく、MCUの新展開への予感に満ちるも、時期が悪く売上が低迷した、不運な作品。

今作の予習として、シークレットインベージョンも最後まで見た方がよかったかもしれないが、4話以下未見である。
その他、いくつかのドラマシリーズを見ていれば、今作のキャラクターの理解は進むだろう。