足拭き猫

PLAY! ~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~の足拭き猫のレビュー・感想・評価

4.0
孤独だった3人がスタートラインに立つまで。

観てスッキリする熱血(e)スポーツ物キラキラ映画と思いきやそうではなかった。青春映画の雄と呼ばれる古厩監督の新境地かもしれないし、だいぶ昔に観たのでもう一度観ないといけないんだけど「ロボコン」と比べて時代性においての若者群像劇比較論が書けるくらいに違うのでは?

高専生3人のうち翔太(奥平大兼)と達郎(鈴木央士)は家庭に問題を抱えており、特に翔太に関しては描き方が割と残酷。料理をしない家に運び込まれる大きな冷蔵庫、一番下の弟の面倒を見る兄弟、翔太も達郎も親に気を遣う毎日。亘(小倉史也)は家が裕福だけど勉強が出来ず学校では一人。大人から見たら可哀そうと思うけどそれが当たり前のように描かれる。
そんな彼らにも一瞬とはいえ、きらめいている時間があり3人をとても愛おしく思えた。勝負事において勝ち負けは大事かもしれないけど、日々の生活があるからこそ何かに真剣に向かっている瞬間は美しく輝くのだというエール。画面越しじゃなくてリアルでひとつになったラストシーンもそうだし後半はけっこう泣いてしまった。実話に基づいた話とのことだけど家庭環境はどこまで実際と同じ(違う)なんだろうか。

題材的にパソコンに座っている場面がどうしても多くなってしまう中、それ以外の、特に外ロケでの動きの愛らしさやふと出現してしまう身体能力など、俳優の素の部分ともいえる特性が時々現れているのが良い。なお、撮影時にはパソコンには映像は映っておらず、監督の掛け声に応じて演技をしたのだとか。

亘はオタクの嫌な奴として味があり、初見の鈴木央士は予想外に声が渋く、同じく初見の奥平大兼の憂いを含んだ表情、特にファーストシーンが素晴らしかった。親役として出演している斉藤陽一郎は中望遠の画が似合う方だなぁってちょっとほれぼれしちゃったし、横顔しか映らない山田キヌヲのやさぐれ感は新鮮。花瀬琴音さんは声が相当特殊でドギマギした。監督自身も出演されけっこうセリフがあってちょっとびっくり。

「夜明けのすべて」の三宅唱監督に対してもそう感じたが、感情が「アツく」ならない現代において人の内面の描き方の塩梅をいかにコントロールするかの采配がとても上手い。
ただ外国の高校生や知的障碍者のエピソード含め、2時間で描き切れなかった部分がかなり多そうだし、また彼らのこの先が気になるのでドラマなどで突っ込んで描いてもらえると嬉しい。