カカポ

アメリカン・フィクションのカカポのレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
4.3
面白かった。痛快でウイットが効いてて物凄く怒っててやるせなさを感じていて、でもチャーミング、こういう映画みたいなやつと飲む酒は美味い ただ同時にブラックではない私がこういった感想を持つこと自体への冷たい目線もあり、決してもう一歩は踏み込ませない脚本の巧みさを感じた。

評価を受けれず苦しむ黒人作家がやけくそで書いた「ドラッグ!暴力!貧困!」みたいな黒人ステレオタイプ的な小説が大ヒットしてしまい……というメインの部分も面白いが、老母の認知症、非協力的な兄弟との関係性、特養に入るための資金やりくり問題などを描いた中年映画としても優秀。

主人公のモンクの家庭環境を見ていると、お手伝いさんがいてビーチハウスがあって家族はみんな医者家系で……と、どちらかというと「裕福な白人」寄りの生活をしてきたことがわかるし、彼が書きたい小説も別に自信のルーツを全面に出したものではない。それなのに、人種が黒人であるということで著作は全部「アフリカ系」の棚にまとめられ、"黒人っぽい"話でない出版社には門前払いされてしまう。でもこの話で最高なのは、中年堅物偏屈作家のモンクがずっとちゃんとイライラしてること。そりゃこんな目に合ってたらフラストレーション溜まるよ!

しかし、彼のヤケクソ小説が当たると周りは豹変。匿名で書いているとはいえ、全部実体験の伴わない嘘ぱちなのに「すごくリアルだった」「黒人のリアルを伝えてる」と、まさか書いたのが目の前のモンクだとはつゆにも思わず誉めそやす白人たち。売れてない間は黒人小説は黒人のもの、売れたら自分たちのもの。都合がいいわね!!文学賞のくだりで審査員の黒人2人が首を横に振ってるのに、白人3人が「黒人の声を聞かなきゃ!」と勝手に強行採決してしまうの、あまりにグロくて笑ってしまった。

差別と偏見をクリティカルに描いた作品でありながら、笑えるしオチも含めた全体の構成がとにかくかっこいい。今年のアカデミー賞に限った話をすると、"プラスチック"なバービーより、インクの匂いがするこっちの方が断然優れた脚本だと思います。
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