SPNminaco

アメリカン・フィクションのSPNminacoのレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
-
アフリカ系アメリカ人を黒人ステレオタイプに押し込めようとする世間に対抗し、敢えてそのステレオタイプ通りな小説を書いてみせる作家セロニアス・“モンク”・エリソン(天才ジャズ・ピアニストの名前…)。中流家庭出身のモンクには、ギャングやラッパーが警官に撃たれて死ぬ黒人の物語がリアルとは思えない。だが、彼は自分自身のリアルを知ってるといえるのだろうか。
小説は大ヒットするが、皮肉なジョークは通じないという皮肉。ステレオタイプはますます増長し、皮肉は更に皮肉を増す。「白人が求めてるのは真実ではなく免罪符」、でも作家モンクも偽名という逃げを用意してる。帰郷して家族との現実にうまく向き合えない彼は、インチキに満ちた小説をそんな自分への免罪符としてるのではないか。
わかってる気でいても、実はそう単純ではない。母や兄、家族同然の家政婦、編集者、付き合い始めた彼女、モンクが忌み嫌うクズ作家ですら、やはり当事者はそれぞれに複雑だ。ならば複雑なものを複雑なままに、とりあえずそれが誠実な態度なのかもしれない。
モンクは茶番劇の当事者でありながら当事者になれず、愛してくれるはずの人たちは次々離れていく。やがて小説は映画という別の虚構に取り込まれ、インチキで成り立つハリウッドの完璧な結末を迎えることになる。そんな矛盾を引き受けて、ようやく自分のリアルが見えてくる。全部がF**k。ならば、それはそれで。
編集者ジョン・オリッツの後ろの大きな絵画が素晴らしくて気になったし、実家にある絵画、黒人の子どもが白人人形を選ぶ有名な写真(ステレオタイプの刷り込み)など随所に目配せが。終盤のアジア系ソーダ係くんまで、こちらを試すかのような皮肉だらけのメタ構造。
ジェフリー・ライトの演じるペーソスがとても絶妙で、「どこが良いのかわからない」けど愛されるのもわかるような「リアルさ」だった。
SPNminaco

SPNminaco