サラフィアー

アメリカン・フィクションのサラフィアーのレビュー・感想・評価

アメリカン・フィクション(2023年製作の映画)
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あらすじ(Amazon Primeより)侮辱的な表現に頼る“黒人のエンタメ”から利益を得ている世間の風潮にうんざりし、不満を覚えていた小説家が、自分で奇抜な“黒人の本”を書いたことで、自身が軽蔑している偽善の核心に迫ることになる。

ドラッグ、暴力、ギャングスタ、THUG LIFE…差別と貧困に喘ぎながらリスペクトを得るためにドラッグに手を染め、ギャングスタとなり、ついには警察に殺される…低所得層の、凄惨な人生を力強く生きるいわゆる「黒人」の悲劇的な物語ばかりが絶賛される風潮。それが黒人の全てではないだろ!とうんざりしたエリート黒人小説家が、「こんなんがいいんやろ!はいはい!」と冗談で「っぽく」書いた薄っぺらな小説が大ヒットしてしまう。

(モンクはっぽさで創作してしまったのだが)もちろん実際に存在する低所得層の物語を描くのは大事だし、それを本や映画で発信するところまで上り詰めたマイノリティの成功者としての一つの責任だとも捉えられる(他者が押し付けるというよりも、創作者自身が「自分の物語、私たちの物語」を語るべきだと考えている人が多いと思う)。
でもそういう物語こそが白人が求めているものだとしたら?白人が「自分たちと違って黒人は可哀想だなあ、大変だなあ(涙)」と同情しつつ、黒人を他者化するために使われているのだとしたら?少なくともこの映画の世界では、モンクの中身のない「っぽい」物語が大絶賛されることで、悲しいことにそれが証明されてしまう。

モンク自身にもスポットが当てられているのが良い。
姉や母のことで自分のしたいこと(高尚な小説を書くとか)だけしていてはやっていけない状況に置かれ、エリート人生を歩みながら無意識に避けていたこと、家族と疎遠になっていたこと、問題に気付けなかったこと、に向き合うことになる。彼がこの物語で最も洗練された知識人であり、彼の主張こそが正しいのだ、という単純な話にしないところが良い。最後に登場しピースサインをする(見るからにあの役だな)という男性もそうだし、「そんなことはわかってる、でも生きるため、これも仕事さ」という、主にアートに携わるマイノリティの苦悩を感じ、なんとも知れぬ気持ちになった。よくできているなあ…