チッコーネ

キャメルのチッコーネのレビュー・感想・評価

キャメル(2023年製作の映画)
3.5
最近、中東エリアの映画を何本か観たが、いずれもイスラム社会で抑圧されている女性たちの葛藤や闘争を、重要なテーマに据えていた。

映画はアートとして、広く世に問題を提起可能な力を持っている。
中東では未だ、女性を描くことが「先鋭」たりうるのだ。
監督陣は男性ばかりだったので、思わず「女性が撮ればよいのに」と思ったが、そこが西側社会の考えに慣れ切った私の浅はかさ。
イスラム社会で女性が日常を顧みず、映画作りに没頭するのは、まだまだ困難なのに違いない。

本作のヒロインも「たかが門限を破っただけで、家長に命を脅かされかねない」ほどの切迫を抱え、生きている。
でも遊びたい、そんな感情の相反は怒りとして鬱積し、爆発寸前だ。
彼女の苛立ちが一線を越えた時、すべてが裏目に出る悪循環が幻想的に、時にホラータッチで描かれていた。

彼女と比べ、やりたい放題に振る舞う男たちは醜悪ですらある…、そのディフォルメには、どこかフェリーニ映画との共通点あり。
また一種の逃避行といえるロードムーヴィには自暴がつきまとい、欧米インディフィルム顔負けのシニシズムも湛えている。

1作の中に2種類のエンディングが用意されているのも、興味深い。
特に家畜と化してはいるが、怒りに身を任せれば人殺しも可能な力を持つキャメルをやけ食いするエンディングは、ペシミスティック。
ヒロインの涙は明らかに、共食いの痛みから流されたものだろう。