チッコーネ

返校 言葉が消えた日のチッコーネのレビュー・感想・評価

返校 言葉が消えた日(2019年製作の映画)
4.5
とにかく画面・照明が美しい。
荒れた夜の廃校が舞台なのだが、埃まみれの舞台美術が繊細で安っぽくない。
「忌中」と書かれた布がたなびく禍々しい幻想空間の中には確かな美意識が宿っていたし、伝統を感じさせる人形芝居の造形は本物だった。
俳優たちの表情を的確に配置する編集の連続にも、思わずため息。
また直球だと非常に辛い「独裁権力 VS 一般市民」の構図にホラー演出が加わると、こんなに観進めやすくなるのだと気付かされたのもうれしい…、「事態を深刻化させるのは軍人でなく、ドロドロした女の情念」という脚本も意外であり、好みだった。
元がゲームということなのでやや構えて観始めたが、映画単体としても非常に良い出来。
これが監督の長編処女作というのだから、今後が非常に楽しみだ。

しかし「反共だが独裁」だった台湾の歴史は、現在の感覚から見ると、どこか不思議に感じられる…、そういえば帝国主義と共産主義が相容れないのは、当たり前だった。
大日本帝國や「反共だが軍事政権」だった韓国と似たところがあるものの、台湾で民主化が本格的に実現したのは1996年なのだから、韓国より10年近く遅いということにる。
80年代以降はホウ・シャオシェンやエドワード・ヤン、90年代以降はツァイ・ミンリャンのような監督がいたものの、台湾映画が質量ともに充実してきたのが近年なのは、自然な流れなのだと改めて思い当たった。