netfilms

シンシン/SING SINGのnetfilmsのレビュー・感想・評価

シンシン/SING SING(2023年製作の映画)
3.8
 何も情報がないまま観たら、うっかりフレデリック・ワイズマンの新作とも思いかね無い。そのくらいシリアスで真面目な筆致に驚かされる。私はてっきり、Sing Singでシンシンだと考えていたのだが、実際にニューヨークにシンシン刑務所という施設があるのだという。由来はインディアンの部族ウォピンジャー族の集落Sinksinkからきているらしく、ハドソン川に面した場所にあるという。アメリカでは死刑はなく、最高刑は終身刑だからこのような施設は厳重に管理されているという。中でもこのシンシン刑務所は重罪犯を収容する施設のようで、有名なところでは「サムの息子」という異名でも知られるシリアル・キラーのデビッド・バーコウィッツも収監されているらしい。詳しく知りたい方はスパイク・リーの『サマー・オブ・サム』 を参照されたい。アメリカでは、懲役刑ではなく禁錮刑が採用されているため、法的には収容中に刑務作業が強制されないのだが、重罪を受けた彼らは多くの不自由を強いられている。

 然し乍らそんなシンシン刑務所では1996年、芸術を通した更生プログラムRehabilitation Through the Arts通称RTAが生まれる。RTAは非営利団体で、230人以上の受刑者を対象に、主に重度・中度の警備体制の刑務所にて行われているそうだ。元々はシェークスピアの戯曲などを題材にしていたらしいが、段々と薬物、ギャング、犯罪、誤った決断といった受刑者自身の人生をテーマにしたオリジナル作品を上演するという。主人公は男ディヴァイン・Gで、彼の描く犯罪とその代償を瞬く間に評判を浴びるものの、新入りとなるクラレンス・マクリンはその作劇に嘘臭さを感じ、どこか気に入らない様子だ。それもそのはず、主人公は実は無実の罪で収監された曰く付きの人物で、そこに異を唱えるのは幾多の殺人罪で収監された札付きの悪なのだ。今作が真に斬新なのは、一見ドキュメンタリーの形式を取るが実は再現ドラマなのだ。然し乍らエンド・クレジットでAs Himself(彼ら自身)と訳されるように主演だけはプロの俳優で、あとは当の本人たちが再現ドラマを紡いでいる点にある。まさかそこまで入り組んだ構造とは思わなかった私は呆気に取られたが、興味を持たれた方は是非とも観て頂きたい。
netfilms

netfilms