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アマチュアのnetfilmsのレビュー・感想・評価

アマチュア(2025年製作の映画)
4.0
 今週は目玉となる『アマチュア』と言う映画と、その対義語となる『プロフェッショナル』という映画が同時に混在する奇跡のような偶然で、リーアム・ニーソン主演の『プロフェッショナル』という映画についても非常に面白かったのでまた別枠で述べるとする。今作『アマチュア』は字幕版と吹替え版があるが、両方観た上で私は字幕版を強く勧める。CIA本部でサイバー捜査官として働いているチャーリー・ヘラー(ラミ・マレック)は内気な性格の愛妻家である。毎日、出勤前のキスを欠かさないチャーリーはその日も愛する妻を先に送り出す。彼女が出発した後の彼の表情には安堵の色が見える。ところがある日、ロンドン出張中の妻がテロ事件で命を奪われ、順調だった彼の平穏で幸せな人生は激変する。CIAスタッフでも実働班ではなく、専ら裏方スタッフとしてサイバー業務に就く彼自身は恐ろしく体を鍛える必要もなければ、銃の撃ち方の実戦練習すらもショートカットされたもやし人間である。ところが愛妻を不慮の事故で失った瞬間、「妻を殺した奴を見つけて、自らの手で裁きを下す」とテロリストたちへの復讐を決意し、あろうことかCIAの上司にも涙ぐましいプレゼンを再三再四するようになる。冒頭の時点で、ワーカホリックな男は妻との安らぎの時間を持てず、ある種のノイローゼに晒されている。映像そのものはデジタル情報だから、何度も再生可能である。実際に妻が撃たれた瞬間を夫は見ていないが、彼の復讐への野心は単なるプロジェクトやミッションを越え、常軌を逸している。その度が過ぎた復讐心はCIA本部にも煙たがられる程である。

 「今度は今度、今は今」というのは『パーフェクト・デイズ』の平山と姪っ子との他愛ない会話だが、物語世界においては今度という人間に限って未来に実行できた試しがない。チャーリー・ヘラーの妻への甘言はまたしてもCIAの激務により遂に実現されないのだ。然しながらその後の映像で何度も繰り返される妻の処刑シーンに主人公は狼狽する。彼女はテロリストの人質となり、後頭部への銃撃でほとんど即死だった。組織が理想的な集団であるとするならば、単なる一サイバー班であるチャーリー・ヘラーには口を謹んで頂きたいが、組織の想定を超えるような唖然とするような主人公のハレーションは起きる。その精神世界はCIAにも紐解けない。シネスコ・サイズの今作の構図の巧みさは、しばしば秘密裏の諜報活動へと没入して行く主人公の狂気を紡いで行く。CIAの教官ヘンダーソン大佐(ローレンス・フィッシュバーン)の教えにより、主人公は至近距離での銃の撃ち方を学ぶのだが、それでもやはり人間には得手・不得手があるらしい。ニヒリズムの先には、『ジョン・ウィック』シリーズや『イコライザー』シリーズを踏まえた上で、非力な者を照らす。ローレンス・フィッシュバーンとの抜きつ抜かれつの追いかけっこには若干の『マトリックス』感がある。世界中に監視カメラが張り巡らされ、いつ何時誰にでも狙われる世界線ということで真っ先に想起したのは マット・デイモンの『ジェイソン・ボーン』3部作だが、非力な人間が果たして殺し屋やテロリストと対峙した場合、いったいどうすれば良いのか?それならば銃撃った方が早いべと突っ込みたくなるような長州力ならぬ、長州非力人間の火事場の糞力というか、人間力に魅了される。
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