この世の生がなくなる瞬間、死の使いが次に死者となる誰かの元を訪れ、死後の世界へと案内してくれる。そんな世の中なら少しは楽に成仏出来るかもしれないと考えた。然しながらその動物というのは、鳥である。コンゴウインコと呼ばれるカラフルな鳥は体長が大きく、グロテスクな姿形をしている。そのターゲットとなるのは、チューズデー(ローラ・ペティクルー)という名の15歳の少女だった。鳥は彼女の目の前で、「最後の宣告」をするかに思えるが、どういうわけか単刀直入に語ろうとしない。チューズデーの家には父親も兄弟姉妹もいない。おそらくシングルマザーのゾラ(ジュリア・ルイス=ドレイファス)との2人暮らしなのだが、映画は病名や彼女の背景を詳らかにはしない。鳥というのは、この世の動物の中で一番天国に近いところにいるように思えるが、天国が天上の世界であるかは誰にもわからない。おそらく呼吸器系の病気で緩和ケアが必要な状態の彼女には日中、ビリー(リア・ハーヴェイ )という名の看護師がついている。彼女はもしもチューズデーに不意の何かがあれば、ゾラに報告するというミッションがあるのだが、ある日突然カラフルでグロテスクな鳥が彼女の元を訪れるのだ。
図らずもスピルバーグの『E.T.』のような導入部分である。家族の中で孤独な少女の元にある日突然、奇妙な生物がやって来るのだが、ジュブナイルな少女には死の使いがシスターフッド的な親友に見える辺りが今作の核となる。彼女の生が消え行く中で、鳥は死の宣告の前に様々な示唆に富むコミュニケーションを繰り返す。面白いのはこの鳥がPeople Under the Stairs通称Putsの『Montego Slay』が有害な騒音で、逆にIce Cubeの『It Was A Good Day』に心底ノリノリでご機嫌になる点に尽きる。単なる死の瞬間を告げるための鳥は自身のサイズを容易に延び縮み可能なのだが、やがてダウンサイズしてゾラを欺こうとする。The Isley Brothersの『Footsteps in the Dark』のイントロ部分だけを文字通り、大胆にサンプリングしたIce Cubeの『It Was A Good Day』が皮肉にもマリファナでレイドバックした1日を謳うような人生讃歌なのである。患者の最期の瞬間を病院で看取るか自宅で看取るかは兎も角としても、チューズデーの生の瞬間を1日でも長く過ごしたいゾラと鳥とは文字通り犬猿の仲を築くものの、超自然的な鳥の閃きは迸る。いま最もクリエイティブで失敗を恐れないA24はクロアチア出身の若きダイナ・O・プスィッチの感性に賭ける。さながら丹波哲郎の『大霊界』の世界である。終盤の展開は明らかに破綻しているものの、それでもOKを出したA24の姿勢には敬意を表するしかない。