netfilms

Love Letter 4K リマスターのnetfilmsのレビュー・感想・評価

Love Letter 4K リマスター(1995年製作の映画)
4.3
 初日の30周年舞台挨拶付きの上映に馳せ参じたが、不在の主人公に思わず涙ぐむ場面が無かったと言えば噓になる。ミポリンではなく、美穂ちゃんと今日は言うという豊川悦司さんの宣言もあり、極力冷静に言葉を紡いで行った岩井俊二監督や豊川悦司さんや酒井美紀さんの記憶の挿話は実際の映画体験の補完にもなり得る。私が何度も擦り続けた「応答しない手紙」の世界線に縛られているのは何も私だけではあるまい。神戸に住む渡辺博子は、山の遭難事故で死んでしまった恋人・藤井樹の三回忌の帰り道、彼の母・安代に誘われ、彼の家で中学の卒業アルバムを見せてもらった。その中に樹の昔の住所を発見した博子は、今は国道になってしまったというその小樽の住所に手紙を出してみることを思い付く。数日後、博子の手紙は小樽に住む藤井樹という同姓同名の女性のもとに届いていた。「拝啓、藤井樹様。お元気ですか? 私は元気です」という手紙に心当たりのない樹は、好奇心から返事を書いてみることにするが、返事が届くはずのない手紙に信じられないことに返事が届く。

 予告編の「おげんきですか~?」という渡辺博子の叫びは実は終盤にフックして出て来る。応答しない手紙は何故か応答し、藤井の所在は不明だが、博子と樹とは「届かないはずなのに届いた手紙の謎」というミステリーにひとまず決着を付ける。然しながら真に厄介なのは、その後の不明瞭なストリーテリングだった。博子は秋葉(豊川悦司)と共に樹に会いに行く。小樽のこの場面の描写は云うまでもなく、クシシュトフ・キェシロフスキの『ふたりのベロニカ』のイギリスとポーランドとの同時性を伏線に置いた事実は想像に難くない。タイトルである『Love Letter』というのが言い得て妙で、応答しないはずの手紙を無邪気に出した主人公の何でもないアイデアは然しながら、外の世界と内の世界との物語を紡いで行く。手紙の差出人と受取人とは、双子の様に似た美しい人(中山美穂)を中心に据えながらも、世界の崩壊への危惧を感じさせる。映画において何より重要なのは距離や時間であって、物語世界ではないという至極当たり前な事実に、処女作で既に岩井俊二勘付いている。美穂ちゃんは12時間の中で僅か3言くらいしか語らなかったと豊川悦司は云った。映画が好きではないとざっくばらんに語る中山美穂の姿に岩井俊二は驚いたが実は中山美穂は、博子と樹の演じ方の違いに悩んでいたという監督の言葉に思わず涙腺が緩む。
netfilms

netfilms