第二次世界大戦中、独ナチス軍の猛攻により英国は窮地に追いこまれていた。ガス少佐(ヘンリー・カヴィル)は特殊作戦執行部に召喚され、ガビンズ‘M’少将(ケイリー・エルウィズ)とその部下イアン・フレミング(フレディ・フォックス)から任務を言い渡される。その任務とは、英国軍にもナチスにも見つからずに北大西洋上の独軍潜水艦Uボートを無力化するというものだった。ガスはメンバーを集め、漁師を装い船で現地へと向かい、潜入工作員のマージョリー(エイザ・ゴンザレス)やリカルド・ヘロン(バブス・オルサンモクン)らとともに作戦決行に向け準備を進めるが、事態は暗礁へと乗り上げる。予告編は未見だが、僅かなポスター・ビジュアルを頼りに今作はガイ・リッチーが大好きなクエンティン・タランティーノの『イングロリアス・バスターズ』の二次創作の様な世界線になるのではとあらかじめ予想したが、見事にビンゴだった。英国チャーチル首相の肝入りにより、引っこ抜かれるのは諜報員時代の「007」シリーズの原作者であるイアン・フレミングに他ならない。アンジェントルメンは非紳士たちという意味で、彼らは規律よりも命令よりも自由を何よりも重んじる。
ウォルフガング・ペーターゼンの『U・ボート』は、80年代を代表する見事な戦争映画には違いないのだが、今作はドイツの潜水艦・Uボートの成功体験をあえて逆側から照射する試みと呼んで良い。戦争は最前線よりも相手の補給線を絶てとはよく言ったものだが、常勝ムードで少し気が緩んだナチス・ドイツの虚を突くような秘密裏の作戦が妙に痛快である。これがまさかの実話だとのことだが、実話は部分部分で、そのエピソードはかなり盛っているんだろう。特にヴィルヌーヴの『DUNE/デューン 砂の惑星』にジャミス役で出演していたバブス・オルサンモクンのシークエンスはほとんど脚色だろう。まぁ製作陣のトップにジェリー・ブラッカイマーのクレジットがあった時点で、火薬ドバドバの爆破系アクションだと予想した人々はもれなくビンゴな派手目のアクションに、ご機嫌なサウンドトラックがノリノリでミックスされて行く。ナチスドイツの鉤十字を勧善懲悪で葬り去るのが今作の目論見だとしても、実際のナチス・ドイツがこんなに緊張感がなかったとはとても思えず。映画は冒頭から破天荒な味方側にまったく緊張感がなく、敵に狙われたらという戦争映画の恐怖が1つもない。紅一点となる峰不二子ことマージョリー(エイザ・ゴンザレス)の挿話も、ジューイッシュだと見破られながら1mmのスリルも感じられない有様である。敵方のラスボスであるルアー大佐を演じたティル・シュヴァイガー(『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』の主人公!!)の容姿が、殆ど『イングロリアス・バスターズ』のブラピそっくりなのには笑った。