ノラネコの呑んで観るシネマ

タタミのノラネコの呑んで観るシネマのレビュー・感想・評価

タタミ(2023年製作の映画)
4.7
東京国際映画祭。
こんなにも重苦しく、息詰まるスポーツ映画を初めて観た。
イラン代表の柔道選手が、イスラエル選手との対戦を避けるために、イラン協会から棄権を命じられた実際のケースをモデルに、イラン出身のザラ・アミールとイスラエル出身のガイ・ナッティブが、共同監督して作り上げた大変な力作だ。
権威主義政権が支配する国では、国民の人権も自由意志も、いかに軽視されるか。
生殺与奪の権を奪われ、自分が単なる国家の部品であると宣言された選手と、板挟みになるコーチ、それぞれの葛藤を試合と並行して描く。
実際のケースでは男性だった選手は女性に変えられ、スポーツの問題の限らず、ジェンダー差別の問題も内包。
終盤の選手のある行動は、マフサ・アミニさんの事件を反映したものだろう。
本作に関わったイラン人は全て亡命者だったため、大使館協力のもと、撮影も危険を考慮して秘密裏に行なわれたという。
世界が二元論で語られる権威主義の世界観を表すBWの映像と、閉塞的なスタンダードサイズの画面。
亡命者たちの経験を取り込んだ、スパイ映画もどきの政権からの圧力描写など、細部に至るまでリアリティ満点だ。