ギルド

タタミのギルドのレビュー・感想・評価

タタミ(2023年製作の映画)
4.5
【戦う事は悪か?】【東京国際映画祭】
■あらすじ
『聖地には蜘蛛が巣を張る』(22)でカンヌ映画祭女優賞を受賞したザル・アミールとイスラエル出身のガイ・ナッティヴが共同で監督した作品。イスラエル選手との対戦を避けるため、イラン政府から棄権を強要された女子柔道選手とコーチとの葛藤を描く。

■みどころ
大傑作!
イランの柔道選手がイスラエルとの試合を避けるために当局から棄権を強いられたお話。
この映画は実際に2019年のイラン男性柔道選手に起きた実話を基にした作品で、話を作っていくにつれて2022年に起きたヘジャブを正しく着なかったことで殺害された女性の事件をも取り入れた社会派作品でもある。

ホセイニは試合に向けて減量したり自ら高める活動をして試合に臨んでいた。
試合は順調に進みフランス戦では内股を見事に決めるなど幸先が良いことが伺える。
そんな矢先にホセイニのコーチ宛に柔道協会の会長から連絡が来る。会長によると試合でイスラエルと試合するかもしれない。だからホセイニに棄権しろと言われる。最初はコーチも反抗したが会長の言葉が段々と荒っぽくなり、棄権してもらうことを余儀なくされる。
その話とは裏腹にホセイニは良い戦績を重ねていて、そんな彼女に水を差す様に棄権しろとコーチは言う。
しかし、そんな話を聞き入れるわけもなくホセイニは試合を続行する。
柔道協会の会長は激怒し、コーチとホセイニ宛に政府や最高指導者からも棄権しろと言い、徐々にホセイニとコーチの家族にまで危険に晒される。
ホセイニ自身も夫に電話すると夫からも工作員らしき人物が張り込んでいると言われ、夫と子供に遠くに逃げるよう助言する。
そんなホセイニとコーチの様子に違和感を大会主催者WJA職員らは感じ取り、ホセイニとコーチとWJA職員らは当局の危機を感じながらある行動に出るが…

本作はスポーツという公平性ある舞台で、しかも相手を互いに尊重する武道の分野において支配する政治的しがらみに焦点を当てた作品である。
つまり政治的・宗教上のしがらみによってスポーツマンシップを取る試合において忖度・八百長を強いる異常性を炙り出し、巨大なしがらみの力学に晒されるスポーツ選手の苦悩を描いた映画なのだ。

本作の素晴らしいところは試合を重ねるにつれて状況が悪化し、選手の当事者だけでなく選手の家族にも危機的状況に晒されるという試合の状況と比例的に身の危険度合いも緊張感も増すところにあると思う。
つまり「試合の戦況=選手らの危機的状況」に投影し、勝ちたい事と命の危機に晒される事を等価にする異常性を炙り出しているのだ。
試合をしていくミニマムな展開だからこそ、徐々に増していく危険性を直に感じ取り、緊迫感が増す演出は素晴らしいと思いました。
緊迫感をミニマムな展開だけでなくアスペクト比の変遷によって演出するのも相まって強く響いた一作です。

ぜひ日本公開して欲しい作品です!
ギルド

ギルド