K

ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフのKのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

25/10/2023 丸の内TOEI(初) スクリーン1 G5 16:15〜 東京国際映画祭
下手ブロック。12-13がセンター。スクリーンは大きく湾曲しており、全席から見上げ。列はGで良い感じだった。H〜iもあり。


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"Years ago, you asked me what two men
could do living together on a ranch.
I'll answer you now."

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(これめっっ…ちゃくちゃ観たすぎて、絶対国内配給数年決まらんか永久に配給されんかもな……の気持ちで観に来たよ。)

想像以上にしっかり『ブロークバック・マウンテン』のパロディでありアンサーであり、もうゾクゾクしてしまった。精神的な分かち難さが主題に置かれていて好みだったこともあり、物語がシンプルな言葉で締められてるのも良かったな〜。言いたいことはそれだけなんじょなあ、人間複雑な言葉をカムフラージュのように使いたがるが……。"お互いを保護し合うこと。お互いを受け入れること"。


/アルモドバル作品は複数ジャンルを一編でやってくれるから、展開が読めなくて楽しいんだよな。今作もそれによって短いながらも満足感が物凄かった。今作はロマンス・サスペンスだった。
"お前は俺を家に監禁しようとしている"〜という件りで、へ?そうなの?となったけど、シルヴァにとっては恐らくジェイクと共に生きたい気持ちも息子を愛しているから叱りつけて逃がしたい気持ちも、どちらも本当に抱えているんだろうな。だから一見意図は掴めずとも"会いに来て"、関係を始める……もしくは続けて行くことを選んだ。パワフルな方法で。
『ブロークバック…』では"ここではない、どこかで2人で生きよう/男2人が西部でどう生きるんだ" という、ファンタジックだからこそ先行きの見えない地獄のような重みだけが胃に残されるが、今作の2人はあくまで「どこでもない、ここ」でだって生活をすることができるのだと(オープンエンドではあるが、家の外に複数体の馬が放たれているエンドロールが流されて)提示する。
(参照:https://www.cinematoday.jp/news/N0136928 )
そして" I wish I knew how to quit you "と怒りのまま互いを諦めざるを得なかったかつてのカウボーイ2人に対して、「諦めない」を突き付けるためにシルヴァに少し無理のありそうな方法を取らせたのだとも思うのだ。

明らかに愛し合いながらも憎み合う2人のリレーションシップは、映画的に見てもまさにアルモドバルらしいファンタスティックな"奇妙な生き方"であるし、モデルの時代・現代問わず、当たり前に存在するべき"奇妙な生き方"への願いと、肯定の映画だった。



/満ち足りて、喜びに溢れた視線の交換があったのが印象的だった。(そして若い2人は、手を伸ばしシャツの腰元に手をかけながらも互いに性器に触れることはしない。その後の2ヶ月については分からないが。)
『ブロークバック…』では欲望が先行し、最後にやっと精神的な繋がりがそこに必要だったという事実に痛いほど気付かされる、というストーリーラインだったから、テーブルを囲んだ緊張感溢れるワインの飲み交わしのシーンを含め(互いに愛しながらも素性についての打ち明けたくなさと、性的緊張が走ってもいる)、よくよく考えるとあんな風な視線の交歓はなかったなと。視線の色が違う、BBMの互いの肌を切るような冷え切った青と、今作での疑惑と欲望の赤・暖かなマルーンでは。アルモドバルがコラムで「BBMの2人には肉体の欲望はあったが、精神的な結びつきは描かれなかった」と語っていたように、視線の温度を含めてしっかりBBMへのアンサーなんだな。受け止めたよ……ありがとう……。


/事情を抱えるシルヴァは、ペドロさんの役柄らしい素敵な力強さがあってとても魅力的なキャラクターだった。あたたかで思いやりは人一倍持ち合わせるが、手を挙げる瞬間には一瞬で神経が切り替わる人間、わかるわ。そんで緑色があんなに似合う優しげな顔つきのカウボーイがいるか。(キングスマン2除く)
シェリフのジェイクを務めるイーサン・ホークさん……については申し訳ないんですけども昔からあまり得意ではなくて、未だに鑑賞の仕方がよく分かっていない。ただ脇腹を撃たれてベッドに寝かされる時の感じがめちゃくちゃ良かったですね。身体の薄さとか、首のリンクルが。『マグニフィセント・セブン』でも介抱される姿が良かったし……って考えると死にそうなイーサンホークがただただツボなのかも知れないな。


/ひと場面しか出ないものの、ラテンの女のとにかく鮮やかで力強い存在感に、監督を知らずに観ても恐らくアルモドバルだって分かる。「男のいない女たち」を描くのがあまりにも上手すぎる。

/相変わらずの「家」感も良い。色彩に満ち、キャラクターにとっては慣れ親しんだ場所だけれど、"何か"が彼らの間に渦巻いているから、見えている我々からしたら決して落ち着く場所にはなり得ない。


/Broke Back、だからシルヴァは背中を痛めてる設定だったのかw

/オープニングクレジットでもエンディングクレジットでもかなりサンローランが押し出されていたが、本編観てからも言うほどサンローランか……?て思ったんだけど、いつも衣裳すら強烈なアルモドバル映画における違和感のなさって、それこそクチュリエの手柄なのかも。それか自分に審美眼がないだけです!

/あと、字幕が常に右側表示だった。(TIFFが全部この表示形式なのかは知らんけど)確かにアルモドバル作品は下に表示するスペースないからな……って後で気付いてじわじわ笑えた。良いんですよ、このクローズアップがいっぱいあるのが大好きなんですよファンは。

/あとインスタでずっと主張してるんですけど、日本で配給が決まったら絶対ポスター柄のTシャツ出して欲しい。絶対に。

/本当はこの後の時間の『異人たち』も観たかったんですけど、別の試写があったので4月を待ちます。梯子した人多かったろうな〜!




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🟡ラテンビート映画祭プロデューサー:アルベルト・カレロ・ルゴ & アニメーション部門『ロボット・ドリームス』監督:パブロ・ベルヘル
トークの書き起こし↓


・AL:ラテンビート映画祭は、20年前アルモドバル監督の『バッド・エデュケーション』からスタートした。彼は今NYで新作を撮っているため来日が叶わなかった。
パブロ監督の過去作『スノーホワイト』は、スペインでも有名なゴヤ賞を獲得しており、アルモドバルもお気に入り。
21年前の映画祭でパブロの『トレモリノス』を観た時のTシャツ着てきたよ笑 (PA:なんて感動的な瞬間なんだ!(と笑顔で優しくハグ笑笑))

・パブロとアルモドバルは長い付き合いで、30年前にNY大学への推薦状を書いてくれた。
デビュー作の劇場上映時にーーアルモドバルは超有名人だから混乱を起こしたくないからと表立ってステージに立つことは拒否されたけどーー観てくれて、巨匠の前で緊張した様子の劇場監督にアルモドバルが「バルブ(電球)を替えろ、彼の作品はもっと良い状態で観られるべきだ」と言ってくれた。

・アルモドバルは国内だけでなく国外でも評価され、特にスペイン国内の状況を変えてきた。ヨーロッパでもいち早くマイノリティへの保障が確約されたのは、彼の作品の評判が寄与していたから。
彼の映画はセクシュアリティについてとてもオープン。日本にも素晴らしい監督は沢山いるから、そうして変わることを願っている。


◯今作を観た時の感想について……
・2人で観たがとても気に入った。メロドラマだし俳優も良く、ハリウッド映画的なところも良い。不可能な愛の実現も。
・内装がスペインの台所的で、ポルトガルの「ファド」(民族歌謡)がミックスされ、とてもアルモドバル的だ。
初めの曲のタイトルが『ストレンジ・ウェイ・オブ・ライフ』。原曲を歌っていて、歌の部分の吹き替えもしているカエタノ・ヴェローソはアルモドバルの良き友人。(『トーク・トゥ・ハー』に参加している)
・3つの要素と先に言ったが、4つあるかも。カエタノはブラジルの人だし、マカロニ・ウェスタンも。劇伴はエンニオ・モリコーネっぽいし。サンローランも関わっているし。色んな文化のミックス。

・アルモドバル作品は、セクシュアリティを前面に押し出したものが多いが、今作では隠されており、それによって逆にセクシュアル・テンション(性的緊張)が高まっている。
AL:僕はイーサンとペドロがベッドでアレソレすると期待していたんだけど……笑笑
PA: In your dreams 笑

・主演2人とも人気で忙しいから来日できなかった。… ストライキの影響もあるんじゃないの?… でも終わったんじゃないの?… 多分メジャースタジオはまだ作れないと思う。何にせよ残念。


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・トークの雰囲気がずっと和やかで緊張感がなくすごくいい会だった〜。
他の人も多数感想で書いているけど、いち映画監督の作り出してきた作品やそのテーマが広く知られて国内で受け入れられ、国勢まで変えていく状況って本当にすごいな。それって、映画が芸術として真正面から国民に評価されているってことだし、(少なくとも現在の)スペイン人の大らかさの証明でもあるし、国民の意志は押さえつけられて当然、芸術は見下されて当然という意識の日本で生まれ育ってきた人間としては全く考えられないことだ。
・あと、↑でも言われているように、かなりインターナショナルな感触が強い作品なのよね、面白い意味で無国籍。いくらサンローラン・プロダクションが関わっているプロモーション色の強い作品であろうが、たった30分の作品に普通じゃここまで広めの労力をかけないと思うのよ。必ず約束されたクオリティの作品を仕上げる確約がある監督と、絶対にハズさない俳優たちの確保と、潤沢な資金と……と芸術に対する姿勢そのものが日本とはまるっきり違っていて泣ける。未だに日本の監督が外国の監督に撮影予算を打ち明けると「そんなんで何撮るの???」て絶対に言われるらしいのが現状だもんな。つらすぎる……。
・「今作ではセクシュアリティは隠されている…」とのことだし確かにそうなんだが、本来隠されるべきものではないはずだから、モデルになっている抑圧された時代性を想った。ただしかし、セクシュアリティは誰にとってもパーソナルなもので、隠されていて当然のものでもある。両者もしくは複数人の間に共有されている絆や緊張感、そのミニマルさと当人たちの間だけに広がるダイナミックさが好きだな。願わくば、誰も傷付かずにささやかに/ささめやかに生きていけますように。
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