ヨーク

キック・ミー 怒りのカンザスのヨークのレビュー・感想・評価

3.4
未体験ゾーンの映画たち2024の12本目です。
そして12本目にして今年最後の未体験ゾーン作品でした。今年は全24本だったらしいのでちょうど半分ですね。何本か観たかったやつを観逃したけど、まぁこんなもんじゃないかな。今回の未体験ゾーンの映画たちは例年に比べると作品数は少なかった(確か去年は32本だったかな)が、その分なのかどうかは知らないが一本一本は面白い映画が多かったように思う。特に『アリバイ・ドット・コム 2 ウェディング・ミッション』と『神探大戦』と、これは旧作だが『真夜中の処刑ゲーム』辺りは普通に一般上映してもいいんじゃないだろうかという出来の良さだったので中々粒ぞろいの年だったのではないだろうか。半分しか観ていなくてこれなので単純計算であと3本くらいは一般上映レベルの作品があったかと思うと大したものだ。
んで、本作『キック・ミー 怒りのカンザス』なのだが、いやー! これはひどかったな! いや、ひどかったんだけど、今の映画酷かったな…、ではなくてひどかったな! と感嘆符付きなところに注目していただきたいのだが、要はひどいけど面白い映画だったという微妙なニュアンスを汲んでほしいアレな感じの映画でしたね。ぶっちゃけこれは一般上映無理だろうとは思うが好きだし面白い、そんな映画でしたね。いやほんとに面白かったよ?
それにしても俺は本作を観るまで知らなかったんだけどカンザスシティというのは同じ名前のままでミズーリ州とカンザス州を跨いで存在している街らしく、ミズーリ側のカンザスシティとカンザス側のカンザスシティがあるらしい。まさかこんな映画で普通に勉強してしまうとは思わなかった。んで、詳しく描かれるわけではないがおそらく本作を観る限りではミズーリ州側のカンザスシティは結構高所得者が多いハイソで発展した街で、カンザス州の方はそれとは逆に治安の悪いスラムな感じなのである。本作ではそれも重要な要素として描かれる…のだがそんな真面目に考えるような映画なのだろうか…という気もするが…。
お話はミズーリ州側のカンザスシティに住む高校のスクールカウンセラーの人が主人公で、カンザス州側に住んでいる生徒の進路相談だか何だかのためにカンザス州の方へ行ったところ、そこでヤバイギャングやヤク中の人たちに絡まれて悪夢のような一夜を過ごす…というお話ですね。見どころとしてはカンザス・カンザスはミズーリ・カンザスでは考えられないような治安の悪さでそれに翻弄される主人公の姿を色々な意味で楽しむ、というところだろうか。そこのミズーリではこんなこと考えられへん!! っていうギャップの連続が笑える映画なんですよね。
ただ、笑えるとは言ってもハイテンションなギャグムービーというよりかはオフビートな感じの映画なのでここが笑いどころだよ! みたいなのはあんまり丁寧に提示してくれない。なので何だこの映画…という感じなのだが、最近のメジャー映画の中でいえば大体『ボーはおそれている』と同じ映画でしたよ、コレは。パンツ一丁になったおっさんが悪夢の中を彷徨うという意味では全く同じだし、まさかアリ・アスターは本作からパクったのか…とあろうはずもない想像までしてしまうくらいには似たトーンの作品ではあった。そして俺としてはボーより面白かった(個人差があります)。
なんかね『ボーはおそれている』と対比するわけじゃないけど、こっちは大層なものを語っているのだという感じが一切なくてただひたすらに下らないし、映像的にも迫力もケレンもないし、緊張感とか含意とかも全くないんですよね。『ボーはおそれている』の方はいかにもキリスト教的な、もっと言えば「ヨブ記的」なモチーフが散見されたりするけどこっちはそんなの一切ナッシングだもん。まどろっこしいこと一切なしにパンツ一丁のおじさんが右往左往するだけの映画なんだから、そりゃ俺としてはこっちの方が面白いなってなるわけですよ。
すんげー雑に人が死んでいくロクでもなさと間抜けさには癒しすら感じましたね。特にテーマもなく緩い感じで頭おかしい人と死体が彩る一夜の悪夢、その中で心身ともにぶっ壊れていくパンツ一丁のおじさん、とか面白いに決まってるだろ。実際にこんな街で生きていきたいとは一ミリも思わないが傍から観るには楽しい楽しいカンザスシティの悪夢でしたよ。
これは未体験ゾーンの映画たちラストを締めくくるにはちょうどいい作品でしたね。俺は好きでした。好きだけど、まぁそんなに高いスコアにするのも何だかなぁ…とは思うし、もしこの感想文を読んだ上で本作を見てつまんなかったとしてもそれは俺のせいではないので、つまんないと思ったのならその怒りは俺ではなく監督に向けてください、とだけは書いておきます。
俺は面白かったけどな!
ヨーク

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